「ニッポンフードシフト」と呼ばれる取り組みが始まっている。聞き慣れない言葉だが、消費者が国産農産物を積極的に選択する状況を創り出すため、消費者、食品関連事業者、農業協同組合をはじめ生産者団体など、官民が協働を進め、食と農とのつながりの深めていく新たな国民運動のことである。国の食と環境を支える農業・農村への国民の理解を醸成していく。旗振り役の農林水産省では、先月から同運動に賛同する企業・団体、地方公共団体などを対象に、推進パートナーの募集を開始した。オールジャパンで盛り立てる体制を早期に作り上げる行動である。ただ一方で、輸入農産物、食材に慣れ切った飲食店、流通への理解や国民の意識・行動を変えるのは簡単ではない。

 ニッポンフードシフトは、2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」で提起された。同計画の下で、飼料自給率を反映しない新たな自給率「食料国産率」が示され、目標として30年にカロリー量ベースで53%(生産額では79%)とする方針が打ち出されている。循環型農業や中国への依存度の高い生薬原料植物の国内栽培の推進、地域特産の組み合わせによる製品など農林漁業者・食品事業者の努力、取り組みが消費者に正確に伝わり、コミュニケーションを深め、国産農産物の購買へと行動変容するように大いに喚起していく。化学系資材も国産技術・製品シフトが望ましい。

 国産農産物・食材には、高品質で美味しく、安心感あるが、高価格な割に量の少ないイメージが付きまとう。小売店などの棚に付加価値の高い国産農産物が並ぶが、それだけで安価で品質の良い輸入品との市場競争に優位性が発揮できるだろうか。これまでの農産物の市場拡大、マーケティング戦略は、地域ブランド化が軸となっている。高級路線も普及策だが、消費者理解を深化させて食卓を多くの国産農産物で賑やかにするには、同じ種類の農産物でも品質のよい汎用グレード、形の悪いものなどを手ごろな価格品で小売り向けに供給可能な市場環境を整え、もう一つ新たな軸を作るべきである。

 安価で品質に問題なく購買可能であれば、需要はある。そのためには生産者側の技術導入による生産効率化だけでなく、ネット販売を含めスーパー、青果販売店が付加価値品と汎用品をバランスよく扱ったり、果菜、葉物、根菜に特化した専門店を増やすなど販売形態の多様化を促すことが必要。これらの取り組みを官民一体で小売り業界に要求し、選択の幅を広げることも戦略である。絶え間ないチャレンジが求められる。

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