少々宣伝じみた話題ではあるが、化学工業日報社が29日までオンライン開催している「ケミカルマテリアルジャパン2021」の基調講演が興味深い。議論の中心は2050年のカーボンニュートラルをいかに実現するかだ。

 三菱ケミカルホールディングスのジョンマーク・ギルソン社長は、日本の強みや弱みを分析したうえで、電池材料や軽量素材などの成長機会として期待感を示した。興味を引いたのは日本のエネルギーコストへの指摘だ。

 世界のライバル国が化石燃料から脱却していくと当然、各国間でのエネルギーコストの競争力に差が表れる。そうした将来に対して、ギルソン社長は「日本のコストを100%は楽観視できない」と危機感を強めている。

 エネルギーコストがこのまま上昇していくと、石油化学や鉄鋼などの業界を中心に問題が起きるだろうと危惧し、日本の産業が発展に向かう政策を、業界と政府が協力して考えなければならないと提案している。

 経済産業省製造産業局の吉村一元素材産業課長は、50年の石油化学コンビナートの姿として、既存のナフサを使いながらもCO2の出ない生産フローを図示している。

 CO2排出量の大きいエチレン設備の熱源をアンモニアに転換し、副生されるメタンは原料に使う。CO2は水素で分解してポリエチレンなどを製造。これら仕組みで生産が難しいブタジエンなどC4以降の化学品は廃プラスチックや廃ゴムの利用で補う。

 「毎日思うことは、化学の力で世界を変える」-。吉村課長はこう話す。業界のアイデアを求め、研究開発を公募で進める方針を示した。

 三菱ガス化学の藤井政志社長は、CO2の回収・貯留、利用技術であるCCS、CCUSを紹介している。経産省は将来、日本で12億トンのCO2を回収・貯留することを想定しているが、三菱ガス化学が新潟県に所有する天然ガス鉱区だけで数億トンを封入できるという。CCSの権利を売買する仕組みも、海外では形成されている。

 燃焼時にCO2を排出しないアンモニアは火力発電の燃料利用が考えられ将来、3000万トンもの燃料アンモニアのサプライチェーンをどう構築するのかも大きな課題。藤井社長は、カーボンニュートラル実現には「共感し合う会社が集い、大きな渦を作り、同調できるところは一緒に進めていくことが大事だ」と説いている。

 講演者が共通して挙げるのは業界の垣根を越えた連携の重要性だ。そして強力なリーダーシップをもって大変革を推し進めてほしい。

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