先ごろ「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)の基本計画が発表され、いよいよ準備に拍車がかかる。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、サブテーマに「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」を掲げる。舞台となる大阪は、成長戦略のなかの経済政策で、重点分野の一つに健康・医療関連産業を位置づけている。同産業育成に引き続き力を注ぎ、万博を契機に成長を加速してほしい。

 健康・医療関連産業の世界的なクラスター形成に向けて、以前から体制を整えてきた。北大阪の茨木市と箕面市の丘陵に広がる彩都(国際文化公園都市)と、同じく北部にあり吹田市および摂津市にまたがる健都(北大阪健康医療都市)の両拠点では病院、公設研究機関、企業などが活動、あるいは進出を決めている。大阪市内でも計画が進んでいる。24年春、大阪駅の南に位置する北区中之島に「未来医療国際拠点」が開業する予定だ。一つ屋根の下に医療機関、企業、ベンチャー・スタートアップ、支援機関などが集積。再生医療を基盤にゲノム医療、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などを駆使して次の時代に実現すべき「未来医療」を産業化し、国内外の患者に提供するといった構想を打ち出している。

 大阪には健康・医療関連産業の伸展を支える土壌がある。医師で蘭学者の緒方洪庵が開設した適塾を原点とする大阪大学では、iPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の心筋細胞シートや角膜上皮細胞シートの臨床など最先端の研究が行われている。またiPS細胞などが増殖して各細胞に分化していくうえで必須の細胞外マトリックスを扱う「マトリクソーム」、ウイルスの迅速検出といった技術を有する「ビズジーン」、細胞内分解機構であるオートファジーの実用化に励む「AutoPhagyGO」といった阪大発バイオベンチャーが次々と生まれ、成果の社会実装に挑戦している。

 企業も積極的に経営資源を投じている。ペプチドリーム、塩野義製薬、積水化学などが出資するペプチスターは、摂津市の本社工場でペプチド原薬の開発および製造受託を手がける。吹田地区研究所(吹田市)内に核酸やペプチド向け原薬の製造施設を立ち上げた日本触媒は、今春に本格的に営業活動を始めようとしている。

 魅力的な政策で特異な技術などを持つ企業を誘致し、ベンチャー・スタートアップの誕生・育成を助け、さらには産学官連携などにも力を入れる大阪。健康・医療関連産業の国際都市に発展することを期待したい。

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