低分子分子標的薬の医薬設計コンセプトとしてコバレントドラッグ(共有結合型阻害剤)ヘの注目が一段と高まっている。コバレントドラッグは、標的たんぱく質の特定なアミノ酸残基と共有結合し、たんぱく質の機能を不可逆的に阻害する。標的たんぱく質に付いたり離れたりする従来の可逆的な低分子分子標的薬に比べ、強く持続的な阻害、標的たんぱく質に対する選択性の向上、耐性変異に対する有効性、アンドラッカブル(創薬が困難)な標的に対する創薬の可能性-といったメリットが期待できる。ただ標的以外のたんぱく質と非特異的に反応して副作用を起こす可能性があり長い間、日の目を見なかった。

 コバレントドラッグ創薬が本格化したのは2010年代に入ってから。コバレントドラッグ特有の創薬基盤技術が発展し、がん分野で花開いた。13年にEGFR阻害剤アファチニブ、BTK阻害剤イブルチニブという2つの化合物が製造・販売承認を得たのが追い風となった。

 国内でコバレントドラッグの開発に力を注いでいる企業の一つが大鵬薬品工業だ。約8年前からコバレントドラッグ創薬に取り組み、独自の創薬基盤技術を構築してきた。世界初の共有結合型FGFR阻害剤「TAS-120」(一般名フチバチニブ)はじめ、現在まで6つのコバレントドラッグの臨床開発を進めている。とくにTAS-120は臨床試験において、FGFR2融合遺伝子変異を有する肝内胆管がんなどで、既存の可逆的FGFR阻害剤が耐性変異により無効になった患者への有効性が確認されるなど、ベストインクラスの薬剤になることが期待されている。

 こうしたコバレントドラッグの創薬基盤技術が評価され、今年1月には同じ大塚グループの英アステックスとともに、米メルクと、がん低分子阻害剤のグローバルでの研究提携とライセンスに関する独占的契約を締結した。K-RASがん遺伝子を標的としたコバレントドラックなどの開発に共同で取り組む。

 K-RASは、がんの中で最も一般的な遺伝子変異の一つだが、これまでKRASたんぱく質の活性化を阻害する化合物が作れず、アンドラッカブルな標的とされてきた。ただ米アムジェン、米ミラティ・セラピューティックスのK-RAS G12C変異に対するコバレントドラッグが初期の臨床試験において有効性を示し、がん分野の大型新薬候補として注目を集めている。大鵬薬品が創製した日本発のコバレントドラッグがメルクの支援によって開発が加速され、がん治療にブレークスルーを起こすことを期待したい。

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