政府が6月26日に発令した東京電力管内の電力需給ひっ迫注意報を機に、電力の自給自足が改めて注目を集めている。自宅に太陽電池(PV)と蓄電池を設置して、発電した電力を自宅で使用するといった取り組みだ。このシステム提案、メガソーラーブーム真っ只中の2010年代半ばから、すでに各PVメーカーが行ってきた。11年施行の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)では、期初3年間をプレミアム期間と位置づけ、高額な買取価格が設定された。しかし価格が下がれば、売電よりも自宅で消費することにインセンティブが働く。先行きを見越した各社は「自家消費システム」と銘打ち、PVパネルと蓄電池のセット提案を始めた。

 現在、多くの日系メーカーがPV製造から撤退しているが、研究開発で培ったノウハウを生かし、この自家消費システムの提案を継続中だ。またPV覇権を盤石とした中国のPV大手も、こぞって日本の自家消費市場に着目。格安な蓄電池も自社開発するなどして、日本で新たな需要を刈り取ろうとしている。

 ある日系PVメーカー幹部は先の注意報を受け「ますます自家消費のニーズが高まるだろう」と売り上げ拡大に期待を寄せる。個別住宅で自家消費の導入が進むのは大いに結構な話だ。しかし、いぜんシステム価格は高い。しかも物価上昇に対し所得が上がらない現状にある。これでは、ごく一部の人しかシステムを購入できない。また仮に酷暑で停電などが続けば、電力を絶たれた人の生命が危険にさらされる。電力のセーフティーネット構築は急務だ。

 そこで期待したいのが岩手県久慈市の取り組みだ。積水化学工業と連携し、市民センターにPVパネルと蓄電池を設置。使用電力の自給自足を目指す実証実験を開始した。使用するPVパネルの出力は合計8・8キロワット。同センターが使用する電力の60~70%を賄う。太陽光発電は導入にはそれほど手間がいらず、最も簡単に拠点の独立電源化が可能。しかも今回の実証はPPA(電力販売契約)形式のため、初期費用なしに太陽光発電システムを設置できる。市の担当者は「この取り組みが全国に広がれば」と普及拡大に期待を寄せる。

 政府には、今回の注意報が持つ意味を改めて考えてもらいたい。火力発電所の老朽化対応や想定外の暑さなど、さまざまに要因はあるだろう。しかし結果的に国民を不安に陥れたことに変わりない。国民の生活を守ることが政府の使命だ。PVの活用でセーフティーネットが構築できるなら、公共施設の独立電源化を積極的に後押しするべきだ。

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