新型コロナウイルス感染症の再拡大により、化学業界も厳しい経営環境が続いている。多くの企業業績に影響が出ているが好業績を維持する関西の中堅化学企業がある。成長市場に適した製品を持つ企業はコロナ禍でも順調に業績を伸ばしている。またリモートワークなどニューノーマル(新常態)に対応し、的確に需要を捉えることで安定した収益を確保している。

 売上高、利益とも過去最高を更新し続けているのが田岡化学工業だ。2020年4~9月期決算は可塑剤、ゴム薬品、接着剤、紙用加工樹脂などの多くの事業が新型コロナの影響を受けたものの、樹脂モノマーや受託農薬、電子材料といった売上高の大半を占める精密化学品が堅調な出荷を続け、売上高、利益とも前年を大幅に上回った。

 なかでも光学樹脂ポリマー用原料モノマーが堅調に推移しており、昨年末には三菱ガス化学と合弁会社を設立することで合意した。三菱ガス化学の光学樹脂ポリマーは、高屈折率と低複屈折性を高次元で両立させた高機能小型カメラレンズ材料として、スマートフォンやタブレット端末などに広く採用されている。今後もさらなる需要の伸びが予想され、三菱ガス化学・新潟工場(新潟県新潟市)内に原料モノマー製造プラントを新設する。田岡化学は、自社の播磨工場(兵庫県加古郡)でも設備投資を行い、多目的プラントを建設する。22年4月の商業生産開始を目指しており、生産能力を拡充することで供給責任を果たしていく。

 大阪有機化学工業も20年11月期決算の営業利益が過去最高となった。アクリル酸エステルなどの化成品事業や、化粧品原料などの機能化学品事業の売り上げが減少したが、半導体市場の伸びとリモートワークの普及によって電子材料事業の売上高、利益が大幅に増加した。

 電子材料関連のなかでも、半導体向けArF(フッ化アルゴン)レジスト用モノマーの販売が好調に推移しており、新規設備も安定稼働中。さらに次世代のEUV(極紫外線)レジスト用モノマーも徐々に増加している。今年度は電子材料に加え自動車関連需要の回復を見込み、化成品、機能化学品ともに売り上げの増加を予想する。

 新型コロナ感染拡大の収束が見通せないなか、多くの企業が長期にわたる影響を覚悟する必要がある。先行き不透明な状況下で持続的に業績を拡大するには、これまで以上に環境変化への素早い対応が求められる。自社の製品・サービスの付加価値を高めつつ、新たな収益の柱を育てるなど、自社のあるべき姿を再構築することが重要だ。

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