「デュアルユース」と呼ばれる、民生用だけではなく軍事用にも転用が可能な科学技術をめぐる日本学術会議の発言が波紋を呼んでいる。「デュアルユースと、そうでないものとに単純に二分することはもはや困難」とする認識が「軍事研究を容認」と報道された。学術会議は「軍事研究を拒否する従来の姿勢に変更はない」と説明している。しかし技術は何であれ、潜在的に軍事用途が見出される可能性を排除できない。その事実を認めたうえで、どのように自らの立場を貫くのか。具体的な方策が求められる。

 学術会議は、1950年の「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」の公表から、一貫して軍事研究を拒否してきた。軍事研究となれば、安全保障に関わる以上、当局による統制を受ける。これは「自主性・自律性・公開性が保証され、権力の介入がない」という学問の自由の条件を満たさない。学問の自由は学府が学府たる由縁であり、学術会議をその代表とするならば、軍事研究に手を染めないとするのは当然のことだ。

 かつてウランの核連鎖反応を可能にした科学者たちは原子爆弾の開発を目的にしてはいなかった。しかし軍事利用を恐れ、一人は研究成果を秘密にする活動をしたが、他の同意を得られず公表された。今問われているのは、研究者の意図とは別に、研究が進展する間に軍事利用の可能性が見えてきた場合の対応だ。軍事利用につながる技術なら、安全保障上の観点から公開を制限する必要がある。

 2017年の「軍事的安全保障研究に関する声明」では「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」としていたが、もはや資金出所から判断するだけでは十分ではない。研究の開始段階だけなく進展に応じて対応する必要もある。

 学術会議は、デュアルユースをめぐり「先端科学技術・新興科学技術については、より広範な観点から、研究者及び大学等研究機関が、研究の進展に応じて、適切に管理することが重要」「その際、科学者コミュニティの自律的対応を基本に、研究成果の公開性や研究環境の開放性と安全保障上の要請とのバランス等を慎重に考慮し、必要かつ適切な研究環境を確保していくことが重要」とも述べている。また軍事用途ばかりでなく、経済安全保障上の観点からも管理が必要となっている。今後、それぞれの学術分野の性格に応じて体制の整備が進むことを期待したい。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る