富士フイルムが新たな航海に出た。21年間、経営トップとして舵取りをしてきた古森重隆会長兼CEOが退任し、ヘルスケア事業の拡大にまい進してきた後藤禎一社長兼CEOによる新体制が始動した。この間、医療機器、バイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)などヘルスケアに傾注しているように映るが、後藤新社長は「半導体やディスプレイといった高機能材料事業も、ドキュメント事業も伸ばす」と鼻息は荒い。多角化による“コングロマリット・プレミアム”によって幾多の危機を乗り越えてきた同社。大変革の時代を迎え、それを進化させることができるか。

 2000年代前半、デジタル化によって銀塩写真フィルム事業という本業の破壊的な縮小に直面する。それまで売上高の6割、利益の3分の2を稼ぎ出していた同事業は赤字に転落した。会社存亡の危機のなか、古森氏の下で既存技術の棚卸しを行い、異なる領域に広げる戦略を遂行。それまで進めていた多角化を、さらに進めた。写真フィルムで培った技術を印刷、医療へ展開したのである。

 例えば医療。同社は1936年にレントゲンに使われるX線フィルムを発売するなど、設立間もない頃から医療分野へ展開していた。83年には、世界で初めてX線画像をデジタル化した診断システム「FCR」を製品化する。FCRは、アップルやマイクロソフトが設立される以前からデジタル化の潮流を先読みし開発していた。その後、FCRはデファクトスタンダードに成長する。

 後藤社長は「医療用画像をデジタルでどう見せるか。長年の研究で蓄積がある。医師がどこを見ているのか、どういうコントラストを欲するのかなど、すべてデータが積み上がっている。画像処理の会社として、いまAI(人工知能)化によって大きなアドバンテージになっている」と強調する。

 同社は今春、日立製作所の画像診断関連事業の買収を完了。26年度をめどにヘルスケア事業の売上高1兆円を目指し、大きく一歩前進した。富士フイルムは現在、医用画像情報システム(PACS)で世界シェア首位で「競争上最大の武器」(後藤社長)に挙げている。PACSや画像処理技術と、日立の医療機器、そしてIT・AIを組み合わせ、新しいビジネスモデル構築を目指す。

 医療市場は、新興国を含めて「ディープブルーオーシャン」(後藤社長)であるのは事実。ただし欧米の巨大ヘルスケア企業も狙っている。どんな武器を揃え、磨き、振るい、どう勝負するか。後藤社長の手腕に注目が集まる。

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