デジタル社会の進化により、専門性や創造力が問われる時代が到来する。これまで日常的にこなしてきた定型業務(ルーティンワーク)は、AI(人工知能)やロボットに取って代わられる。人間は、より創造性の高い業務を担うことが求められ、常にスキルを磨いて専門性を高める必要に迫られる。企業は、そうした専門性の高い優秀な人材を確保するべく、雇用制度の改革に乗り出した。新型コロナウイルスも、そうした動きを後押ししており、企業は新しい時代を見据えた人材戦略を駆使しなければ勝ち残れない。
 日本企業はメンバーシップ型雇用と呼ばれる、終身雇用を前提とした勤続年数に応じて給与が上がっていく年功序列の制度を採ってきた。メンバーシップ型では一人ひとりの雇用は守られる一方、減点主義に傾きがちになり、突出した能力や尖った人材に対する評価は低くなる。この結果、イノベーションや革新力が生まれにくくなる。
 もっとも、ジョブディスクリプション(職務規定)が明確でないため、企業にとっては急な仕事や職務と異なる仕事を要請しやすい。企業はこうしたメリットを享受できるため、日本ではなかなかジョブ型雇用が広がらなかった側面がある。
 しかしAIやロボットの進化が目に見えるようになり、さらに企業間競争がグローバル化し新型コロナを含め不確実性が高まるなか、日本でも年齢や勤続年数に関係なく、スキルや成果を重視し職務や報酬を明確にしたジョブ型の雇用制度を導入する動きが広がりつつある。
 三菱ケミカルは今年10月、年功序列の人事制度を抜本的に改革しジョブ型に変える方針。三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長は、最重要テーマであるイノベーション創出のため「とくに研究開発には尖った人材が不可欠。従来のメンバーシップ型では個々の力を生かし切れていない」と強調する。
 デジタル革新を全社に広げつつある住友化学。来年秋に東京本社を日本橋に移転する予定で現在、新オフィスのコンセプトやデザイン設計を進めている。アフターコロナも見据え、社員2~3割の在宅勤務を前提に、常時ウェブ会議ができるスペースやサテライトオフィスなどを検討しており、より生産性の高い環境づくりを進める方針。
 ジョブ型雇用を広げ生産性の高い働き方改革を進めるには、職務規定の明確化や、労働法制度の見直しなど課題は少なくない。しかし社会課題に応えるイノベーションの創出には、突出した人材を育て、高く評価する仕組みが欠かせない。企業側も働く側も変化が求められる。

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