世界がカーボンニュートラルや循環型経済に向け動き出すなか、化学産業がソリューションプロバイダーとしての役割を果たそうと本腰を入れ始めた。三井化学と日本IBMは、ブロックチェーンというデジタル技術を応用し、プラ資源循環の流れを見える化する実証実験に乗り出す。実証実験によって社会実装の課題となるトレーサビリティー(追跡可能性)を証明する計画だ。2050年のカーボンニュートラルを実現するために残された時間は多くない。異業種、当局、消費者など関係者すべてを巻き込み、新しい潮流を作り出せるか。化学は課題解決者として主導する気概が求められる。

 ブロックチェーンとは、分散型ネットワークを構成する複数のコンピューターに、暗号技術を組み合わせ、取引情報などのデータを同期して記録する手法。ネットワーク内で発生した取引の記録をブロックと呼ばれる記録の塊に格納していき、生成されたブロックが時系列に沿ってつながっていくことからブロックチェーンと呼ばれる。ブロックチェーンはネットワーク内で発生した全取引を記録する台帳としての役割を持つため、ネットワークに参加している全ユーザーが同一の台帳を共有することで、情報の信頼性を担保できる。

 このブロックチェーンを活用した廃プラの循環利用の実証実験を、三井化学と日本IBMが共同で始める。廃プラの循環利用を社会実装するには、リサイクル材の安全性や同材が使用されていることを証明したり、真正性(データ改ざんがないこと)を確保する必要がある。この課題をブロックチェーンで乗り越える算段だ。リサイクル材の製造工程から製品の製造工程、販売・回収・解体・粉砕・リサイクルという全段階のイベント情報を各段階で容易にデータ入力でき、後から追跡できる仕組みを構築する。監査や申請などの作業を大幅に削減できる可能性もある。

 三井化学と日本IBMは、今夏までに異業種を巻き込んだ実証実験を行い、検証したうえで来年以降、産業間を越えた日本全体のプラ資源循環システムへ進化させる。将来は日本型モデルとしての輸出も検討するとしている。

 人類は約300年の間、化石燃料を大量に使用し、大気中の炭素バランスを崩してきた。このバランスを取り戻すのがカーボンニュートラルである。人類は英知を結集し、バランスを回復させなければ危機に瀕することになる。炭素を知り尽くす化学は解決法を見いだし、社会実装へと歩み続けなければならない。三井化学と日本IBMの挑戦は大きな一歩だと期待する。

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