人類が実現すべき近未来の社会の姿として、これまでの大量生産・消費型社会から循環型社会へのシフトがある。化学産業は、プラスチックをはじめとする化学製品について、原材料から使用後のリサイクルまでを含めた循環型システムの構築に取り組もうとしている。ただ、そうしたシステムを社会実装するには、広く社会全体が「そのコストを負担する」という共通理解を持つことが不可欠だ。
 新型コロナウイルスという新たな脅威が世界を襲うなかで、化学産業はマスク、防護服、消毒薬、遮蔽板などの感染防止に必要な製品や、その原材料の増産に努め、ワクチンや治療薬の開発、あるいは開発協力に全力を傾けている。世界が危機に直面するなかで、化学産業は改めて人々の安全で快適な暮らしに貢献し、社会生活の基盤を支える必要不可欠な産業であることが再確認されたといえよう。
 一方、小紙が先ごろ実施した「2030年の社会」を問う社長アンケートでは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により「企業は持続可能な開発目標(SDGs)への貢献や、気候変動問題をはじめとする地球環境への対応といった社会課題の解決に対する貢献が、ますます求められるようになる」との意見が多く寄せられた。プラスチックなどを大量生産する化学産業は、循環型社会への移行という大きな課題への貢献が期待されている。
 例えば容器包装用のプラスチックは、軽量化による輸送時の省エネルギー、内容物の保全による食品ロスの軽減、衛生的で簡便な流通の実現といったSDGsに通じるさまざまな価値を提供している。これらの価値をプラスチックと同じように実現する素材は、いまのところほかに見当たらない。したがって循環型社会においても、安全で快適な生活を維持するためにプラスチックは不可欠な素材だ。
 一方で、使用ずみのプラスチックを外界に廃棄することなく再利用するには、回収、輸送、分別、再生などの工程が必要であり、これまでと同等のコストで製造販売することは不可能に近い。循環型社会を構築するには、システム構築のための技術的課題の克服に加え、発生するコストを誰が負担するのかという問題に直面する。
 プラスチックの循環は、便利で、しかも地球に優しいという価値をもたらすだろう。したがって、そのメリットを享受する社会全体がコストを負担するのが妥当だ。化学産業は、国、自治体、一般消費者などを巻き込みながら、そうした提言を行い、価値観のシフトを牽引することが求められよう。

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