サーキュラーエコノミー(循環型経済)で世界の先頭を走るフィンランド。サーキュラーエコノミーのなかでもバイオエコノミー分野でスタートアップが次々生まれ、イノベーションを牽引している。世界のオピニオンリーダーが集まる「世界循環経済フォーラム」(WCEF)を主導し、地球規模でサーキュラーエコノミーのコンセプト、価値観を広めようとしている。

 フィンランドは「2025年までにサーキュラーエコノミーで世界のリーダーになる」という国家的な目標を掲げている。面積は日本とほぼ同じだが、人口は550万人と日本の20分の1。その国がなぜサーキュラーエコノミーの先頭を走れるまでになったのか。そこには「豊富な森林資源」「ノキア凋落をきっかけとした産業構造の転換」という2つの要因がある。

 フィンランドは国土の約70%が森林。森林資源も潤沢で、年間に東京ドーム100個分の森林が増えている。国内の製造業で製紙・パルプ・木材などの森林産業が第2位の規模を誇るのも、そうした理由からだ。

 ただデジタル化の波を受けて紙の需要は減り続けてきた。フィンランドの森林産業は強い危機感を持ち、森林資源を新たな分野で活用するべくイノベーション創出に取り組んでいる。森林産業は長らく同国の主要産業であったため、アカデミア、企業に基礎研究の成果が豊富に蓄積されている。それらを活用して木質バイオマスを生かしたパッケージング、木質ファイバーを使った繊維などを中心に革新的なスタートアップが次々生まれている。同時に公的ファンディング機関であるビジネスフィンランドが、スタートアップの事業を軌道に乗せるために積極的に支援している。

 現在は通信インフラベンダーとして復活したノキアの00年代後半から10年代前半までの低迷も、同国でバイオエコノミー分野のスタートアップを生み出す要因となっている。若者の労働観が変わり、産業構造が大企業依存型からスタートアップ型に大きく転換したのだ。

 ただフィンランドは小国であり国内市場は限られる。スタートアップの生み出したビジネスをより大きく育てるには、海外企業との協業が欠かせない。フィンランドは歴史的にも親日家が多い。日本との時差も6~7時間と欧米の中では比較的小さく、日本からの直行便が週40便以上あるなど距離的には近い。日本がサーキュラーエコノミー分野で、より存在感を発揮していくには、こうした利点を生かして、日本企業とフィンランド企業の協業を加速させることも一つの手ではないだろうか。

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