オランダ・ハーグの地方裁判所がロイヤル・ダッチ・シェルに対して、CO2の排出量を2030年までに19年比45%削減するよう求める判決を下した。裁判所が温暖化ガス削減の数値目標を課すのは異例であり、サーキュラーエコノミーの構築に向けた社会の意識の変化を象徴するものだ。

 シェルは今年2月、温室効果ガス排出量を50年までに実質ゼロにする計画を発表し、30年時点の中間目標として16年比20%削減すると定めていた。今回、裁判所は計画について「具体性に欠け、拘束力もない」と問題視し、グローバルプレーヤーとして地球温暖化に対する責任を自覚し、削減のスピードを上げるよう要求した。原告側は「裁判所が石油メジャーにパリ協定を順守するよう命じた歴史的な日になった」との声明を出している。

 シェルは、石油生産について19年にピークアウトし、30年までに年1~2%程度削減していく方針を示していた。同社は判決に対し、温暖化ガスの削減に貢献していくとしつつ、控訴する方針であることも示している。

 温室効果ガスの削減に対する社会の意識は日増しに高まっている。とりわけ欧米ではESG(環境・社会・ガバナンス)投資の波が押し寄せ、環境NGOが機関投資家などと連携し、金融機関やエネルギー関連企業に株主提案を行う動きが相次いでいる。5月26日のエクソンモービルの株主総会では、ヘッジファンドが提案した環境派の取締役2人が選任された。英金融大手のHSBCは、株主から石炭火力発電などへの投資を段階的にとりやめるよう要求されている。

 日本でも昨年、みずほフィナンシャルグループが、今年に入って三菱UFJフィナンシャルグループが、株主提案で脱炭素に向けた踏み込んだ対応を求められた。

 また住友商事は今年3月、50年のカーボンニュートラル達成に向けた最新情報の開示が不十分であるとし、パリ協定目標と事業活動を整合させた事業戦略を示した計画の策定、および開示を求める株主提案を受けた。

 日本では、まもなく株主総会のシーズンを迎える。循環型経済構築の機運の高まりを受けて、パリ協定や政府が掲げた50年のカーボンニュートラル目標に沿うような経営をしているか、具体的な取り組みの開示を求められる可能性が高い。企業ごと、地域ごとの実情に合わせ、現実的に取り組める計画を策定すべきである。そして経営者には、ステークホルダーを納得させる説明責任が課されていることも忘れてはいけない。

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