新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を受けるファッション衣料業界。昨年には老舗アパレルのレナウンが倒産したほか「洋服の青山」を展開する青山商事が全体の2割に当たる160店舗の閉店を決めるなど、サプライチェーン全体で未曽有の危機に直面している。

 もちろん繊維素材メーカーも例外ではない。展示会中止や対面営業の自粛で、2020年上半期は「プロモート素材の提案を大々的に行えなかった」(大手繊維メーカー)という。素材を直接吟味できなかったアパレル各社も、新たな素材の使用に二の足を踏んだようだ。あるアパレルの幹部は「実績のある素材をリピートして使用せざるを得なかった」と話す。

 しかしコロナ下にあっても開発素材に注目が集まる一年であった。抗菌・抗ウイルスや巣ごもり需要、生活様式の変化などに対応した快適素材など、市場の要求に対し、スピーディーに特性を具現化した展開が数多く見受けられた。

 その代表的な取り組みを、東レが開発したポリエステル長繊維テキスタイル「カミフ」にみることができる。ナチュラル、環境対応といったトレンドがファッション業界のキーワードとなるなか、カミフは独自の複合紡糸技術を駆使することで、ランダムな凹凸感の発現に成功。この結果、和紙のような温もりを持ちながら、柔らかく、心地の良い風合いを実現した。構成するポリマーの一部をリサイクルポリマーにしており、環境配慮素材としても訴求できる。今後は抗ウイルス加工の付与も検討していくという。

 また共働き世帯や単身世帯の増加などにより、洗濯など家事にかける時間を短縮したいという要望が強まっている。そこで帝人フロンティアは、珪藻土の微細な構造に着想を得た衣料用ポリエステル素材「ラッカン」を開発した。通常のポリエステル素材に比べ乾燥時間を約40%短縮するなど、高い吸水・速乾性を可能にした。カジュアル衣料向けの重点プロモート素材として提案を進める考えだ。

 ファッション衣料は近年「ストレッチ」に代表されるように機能性を持つことが当たり前となった。20年代に入った今、地球環境に配慮した「エシカルファッション」のように、身に着けることで心の安らぎも満たせる素材が求められている。

 フィジカルとメンタルに、ともに作用するような心地良い素材は、ウィズコロナ/アフターコロナ時代にはうってつけといえよう。先行きの見えない不透明な時にあるからこそ、ファッションで人々の笑顔を取り戻してもらいたい。

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