わが国が現段階で世界に誇れる産業として多くの国々で好調を持続・拡大している自動車。とりわけ世界トップの生産販売台数となるトヨタ自動車の快進撃が止まらない。4月末、トヨタ本体に先駆けて発表されたデンソー、アイシン、豊田合成などグループ8社の2021年3月期決算では「不断の体質改善努力と(部品や部材の)供給継続」(デンソー・有馬浩二社長)の言葉に代表されるように、8社とも減収ながら、純利益では上期赤字だった5社が通期で増益、黒字を達成した。22年3月期も7社が純利益増益を予測。社内体制や事業改革をスピードアップしてきたアイシンは過去最高の1500億円を見込む。トヨタ系部品メーカーの回復傾向が鮮明となってきた。

 本体のトヨタも5月12日に決算を発表。大手マスコミやシンクタンクなどが予測していた通り、世界的なコロナ禍でも増益を確保した。連結売上高は前期比で8・9%減の27兆2145億円だったが、純利益は同10・3%増、約2000億円増の2兆2452億円とした。昨年半ばからの中国経済の回復、北米など自動車市場の拡大と同時に、コロナ禍を受けた移動時の感染対策として世界的に自動車が見直されている流れも、事業好調の追い風となった。

 またトヨタは、今年度のグループ全体の世界販売台数の見通しについて、今年3月ごろに1000万台弱とした予測値を上方修正。トータルで現段階では1055万台としている。先のウェブ決算会見でも「自動車市場の回復と販売の勢いはまだ続く」との見通しを示した。その一方、CASE対応やカーボンニュートラル、モビリティ企業への変革に向けたすべての取り組みを、一段とスピードアップする方針も強調している。

 今年2月に鍬入れ式を行ったモノやサービスがつながる未来の実証都市「ウーブン・シティ」については、FCV(水素燃料車)やピュアEV(電気自動車)をはじめとする実験や実証で、さらに多様な課題・テーマに取り組んでいく。数年前から自社開発してきた定置型の水素燃料電池や、全固体電池など次世代のエネルギーデバイスを、トヨタがキー技術の一つに据えていることは間違いない。

 自動車市場の好調が続くうちに、次代の研究開発や実証投資をさらに加速する姿勢を鮮明にしている。人工光合成基盤技術の実用化(豊田中央研究所)にグループを挙げて乗り出しているのも、その一例だ。化学やエネルギー系企業が取り組むような開発テーマをグループ総力で追っていることが、トヨタの変革への姿勢を如実に表している。

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