多様性の維持には相互の理解、尊重が必要とされる。ここで壁として立ちはだかるのが、バイアスや固定観念だ。化粧品業界を例に取ると、男性視点では「やたらと製品数が多い」「使う順序が複雑」「成分は水と大差ない」「マーケティングやタレントを起用したCM戦略だけがビジネスの決め手」といったイメージを持つ人も多い。取材してみると大きな違いがある。化粧品の基礎研究では、神経、血液、幹細胞、感覚受容体など、対象の広さや深さ、科学的な価値に驚く。その技術を製品に採用するわけだが法律の関係上、大々的に技術を宣伝できない。結果、マーケティング的なアプローチ自体にも意義はあるが、そこだけに注目が集まりすぎる傾向がある。

 素顔とのギャップに憤ったり幻滅する男性諸氏もいるかもしれない。だが、それは男性目線の呪縛だ。化粧によって女性の気分が良くなる価値は否定できない。高齢の女性が化粧すると、認知機能の改善効果も期待されるなど社会的な意義もある。

 本当の姿をとらえるには、想像によるにせよ、行動によるにせよ、相手の立場に立つことが有効になる。若年層を中心に男性が化粧品を使い始めている状況は現実であり、その変化を一蹴する態度では世の中の変化を見誤る。

 一方、異なるものが共存する多様性の世界においては、個々が存在を続けるうえでの生存競争も展開されている。人類が環境に適応してきたように、組織も変革し続けなければならない。製品供給や情報のフィードバックのリードタイムにおいて、地理的に不利な異国での企業活動にも、それは表れる。応用開発ラボを開設したり、在庫を多めに抱えたり、製造進出するといった生存戦略を駆使し、自らの領域を守ろうとする。

 つまり多様性は、箱庭のような不変の状態ではなく、競争と進化が交錯するダイナミズムを内包している。その前提である環境そのものを破壊することが問題なのだ。

 異なる視点の獲得は付加価値を生む源泉。製品やサービスの開発にとって需要が潜在であれ顕在であれ、ユーザー目線に立つことの重要性は言うまでもない。難しいのは、競争が行き過ぎ寡占的な状況が生まれるほど多様性は損なわれるという点だ。

 格差の要因が異なる視点の有無にあると仮定するなら、強者や多数派は弱者や少数派に理解を示すとともに、異なる視点を持つ重要性を説き、その獲得のために手を差し伸べ、それを受ける側も相手を理解し、自らを進化させる努力をする。それが真の、成熟した多様性と言えるのではないだろうか。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

 

社説の最新記事もっと見る