中長期の経営計画で、非財務KPI(重要評価指標)を開示する化学企業が増えている。日本ゼオンは、2021~22年度の中計で30年に従業員のエンゲージメント指数を75%(21年52%)に高めるなどの目標値を定めた。社員の意欲に応える施策の一環で4月に本社オフィスをリニューアル。組織の枠を越えた協業やチームワークの強化、ソロワークの両面に役立つ職場環境を整えた。田中公章社長は「こうした場の提供により、最終的には世界を変えるイノベーションの創出につなげたい」と話す。

 旭化成も22~24年度の中計で、24年度にデジタルトランスフォーメーションの中核役となる「デジタルプロ人財」を21年度比10倍に増やすなどの非財務KPIを設定。工藤幸四郎社長は「中計の成否は人財にかかり、経営戦略と人財戦略の連動がこれまで以上に不可欠」と語る。

 30年度までの長期経営計画で、気候変動や企業文化、人的資本、イノベーションといったマテリアリティ(重要課題)ごとの非財務KPIを設定した三井化学。例えば将来の経営者候補を選抜・育成する「キータレントマネジメント」では、戦略重要ポジションの後継者候補準備率を30年度に250%(21年度233%)まで高める。

 詳細かつ具体的な非財務KPIを設定した理由を、三井化学の橋本修社長は「変化していくわれわれの行動が、正しい方向に向かっているかをチェックする一つの指標」と話す。同社は30年度にコア営業利益2500億円(21年度見込みは1600億円)などの財務目標を掲げる。さまざまな環境変化のなか、成長曲線が右肩上がりを描くとは限らないが、非財務KPIの面で着実に実績を積み上げていることが確認できれば「自信につながり、蓋然性が認識できる」と橋本社長。

 非財務KPIの開示が進むのは、21年6月のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂で、多様性やサステナビリティなど非財務情報の充実が求められるようになったことが背景にある。一方で非財務面の取り組み強化が持続的な成長を目指すうえで重要、との認識が浸透してきた表れでもあろう。

 旭化成の場合、次の成長の牽引役とする10事業の全社営業利益に占める比率を、30年ごろまでに70%以上に高める目標を掲げる。その進捗をモニタリングする非財務KPIとして、10事業関連の有効特許件数の割合を、30年度に50%超(21年度30%超)に高める。非財務KPIは経営の羅針盤というだけでなく、成長への本気度を示すメッセージともいえる。

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