持続可能な社会への転換に向けて、企業と投資家との溝が深まっている。世界最大の資産運用会社である米国ブラックロックは、7月公表したスチュワードシップ活動に関する報告書で、地球温暖化防止などの環境対応をめぐり319社の経営陣を支持せず、255人の取締役に反対票を投じたことを明らかにした。それぞれ前年の53社、55人から大幅に増加している。

 米石油大手のエクソンモービルの総会で、物言う株主が推す環境派の取締役候補4人のうち3人が現職を押しのけて選任されたことは「歴史的敗北」と伝えられた。3人を支持したなかには第3位の大株主であるブラックロックも含まれる。「エクソンとその取締役会は、今後数十年の間に化石燃料の需要が急速に減少する可能性に対して、同社の戦略と取締役会の専門性を十分に評価していなかった」としたうえで「新たな視点と、より適切な経験を取締役会にもたらすため」と、その理由を示している。

 投資家が企業に対し、気候変動対策の強化を求める背景には、地球温暖化が資産を運用上のリスクとして顕在化してきたためだ。ただ、こうした動きが新たな懸念を生んでいる。欧州委員会で金融サービスなどを担当するメイリード・マクギネス委員は今月、「持続可能性への移行が無秩序である場合の経済的ショックのリスクにも注意する必要がある」と指摘した。例えば地球温暖化の元凶だからといって、明日にも化石燃料の生産を止めてしまっては世界が立ち行かなくなるというわけだ。

 欧州委員会はこれまで、タクソノミーとして持続可能な事業を定義し、それ以外の事業への投資を規制する方向で気候変動対策への民間資金動員を強力に推し進めてきた。これでは金融業界も、二酸化炭素を多く排出する企業からは資金を引き揚げざるを得ない。今後はタクソノミーに合致しない事業を切り捨てるだけのやり方ではなく、そこへ至るステップも支援する。タクソノミーを補完する中間段階のタクソノミーを検討しており、移行が着実に行われることを促すという。

 持続可能な社会への転換に向けて、移行を強調することは重要だ。そこで初めて両者の建設的な対話が成り立つ。「投資家との対話を通じてこそ、企業は自らの課題の克服や中長期的な価値向上のための“気づき”を得、投資家は企業の成長による果実を享受することができる」(経団連「企業と投資家による建設的対話の促進に向けて」)。企業と株主は協調するべきだ。委任状を巡り争うのは健全とはいえない。

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