新型コロナウイルス感染拡大による厳しい経営状況下にあるが、関西の中堅化学企業は、将来を見据えた設備投資やM&A(合併・買収)、新規分野の開拓に乗り出している。各社とも特定の分野で高い優位性を確保し、確固たる事業基盤を構築済みだ。しかし持続的成長を確実なものとするため競合より早く経営資源を投入し、企業体質をさらに強化している。

 水処理薬剤を展開する多木化学は、超高塩基度ポリ塩化アルミニウム(PAC)の生産能力を増強する。同社の超高塩基度PACは塩基度が70%(従来品50~60%)と高く、凝集性が従来品よりも向上している。2016年に日本水道協会(JWWA)が定めるPACの塩基度の規格上限が改正され、同社の超高塩基度PACが正式にJWWAの規格品となった。さらに今年1月に東京都水道局が発表した「東京水道長期戦略構想2020」で高塩基度PACを順次導入していく方針が示され、需要拡大が見込まれる。同社は千葉工場(千葉県市原市)で超高塩基度PACの生産能力を最大約2倍まで拡大する予定で、今後の需要に応じて本社工場(兵庫県加古川市)、九州工場(福岡県北九州市)でも生産能力を引き上げていく計画だ。

 MORESCOは、オートファジーの研究開発を手がける大学発ベンチャーのAutoPhagyGO(大阪府吹田市)に出資するとともに、オートファジーを制御する新規低分子化合物の研究開発に取り組む。MORESCOは、特殊合成潤滑油の開発で培った合成技術、精製技術を生かし、オートファジーの活性を制御する創薬の共同研究開発を実施する。またオートファジーコンソーシアムに参画している関係各社とコラボレーションすることで、さまざまな成果の早期導出を目指す。

 大阪有機化学工業は、三菱ケミカルの事業の一部である頭髪化粧品用アクリル樹脂の製造・販売事業を譲り受けることで合意した。大阪有機化学は、ヘアケア商品向けにさまざまなアクリル樹脂を販売。国内を中心に100社以上の化粧品会社に採用されている。今回の事業譲受により、製品ラインアップの拡充とともに海外販売のチャンネルを獲得する。

 現在の厳しい経営環境で企業はどのような経営的選択をし、それをどのように実行していくのか、難しい課題を突きつけられている。各社とも不確実な未来に備えるため、変化する事業環境や技術革新への高い対応力が求められる。事業の将来性を多面的に分析しつつ、新たな事業機会を確実に捉える戦略的な視点が重要だ。

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