塩化ビニル樹脂は代表的な汎用プラスチックの一つ。機械的安全性や耐クリープ性、耐薬品性、難燃性をはじめ多くの優れた特徴を有する。原料の6割近くが塩に由来する塩素であり、石油資源の使用量が少ないというのも他の汎用プラにはない点だ。マテリアルリサイクルにも適している。他のプラスチックのようにリペレットしなくても、使用ずみの塩ビ管などを粉砕して再度、押出機にかけて塩ビ管を作れる。そういう意味で環境的にも優れた材料だ。事実、国内の塩ビのマテリアルリサイクル率は30%以上に達しており、ポリオレフィンなど他の樹脂に比べても高い水準にある。

 しかし塩ビは1990年代に激しい逆風にさらされた。一部報道をきっかけに、有機塩素化合物であるダイオキシン類生成の元凶のように扱われ“環境対応”として脱塩ビの動きが進んだ。しかし塩ビを含むごみを燃焼すれば必ずダイオキシンを生成するということではなく、燃焼状態や排ガス処理の状況の方がダイオキシン類濃度に大きな影響を及ぼすことが分かった。国の施策で焼却炉の改良と運転管理の改善が行われ、廃棄物焼却施設由来のダイオキシン類の排出量は劇的に減少。環境基準値の数十分の一になっているという。同様に“環境ホルモン”として可塑剤の安全性も懸念されたが、DEHPの内分泌かく乱作用については、環境省の「環境ホルモン戦略計画SPEED,」の取り組みにより否定されている。こうした科学的な検証を経て、一時の塩ビ忌避の動きはなくなり、自動車をはじめとする多様な産業で塩ビを再び活用する動きが広がったという経緯がある。

 しかし今なお、塩ビ忌避時代のイメージが残っているためか、不正確な情報が出回ることがある。塩ビ環境・工業協会(VEC)が問題を指摘するのが2022年の大学入学共通テスト(英語)だ。長文問題で「塩ビが環境に問題があり、最もリサイクルしにくいプラスチックである」かのように書かれている。回答として選択肢の「リサイクルすることが難しい」を正解とみる小問も出された。明らかに事実と異なる。大学入学テストに用いられるということは、その年の受験生のみならず、未来の受験生が過去問題に取り組むに当たっても目にするだろう。その影響は、あまりにも大きい。

 一度広まったイメージを覆すのは、そのイメージが最初から誤ったものであっても難しい。だからこそ情報を発信する際には、常に科学的根拠を確認する姿勢を持ち続けるべきであると、胸に刻まなければならない。

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