「新たな生活様式」は人々の行動や考え方、働き方の変革を迫った。消費活動にも影響を及ぼし、リモートワークは仕事の効率化を見いだした。その一方、リモートによりコミュニケーション不足やストレスといった弊害も生まれた。コロナで前倒しに進んだ働き方改革は、企業に新たな対応を迫っている。

 新型コロナウイルス感染防止策として大手を中心に多くの企業がテレワークを実施した。顧客を含めてICT環境が整備されたことで営業活動もリモートでこなせるなど、幅広い職種で通勤をともなわない効率的な時間の使い方を享受。遅々として進まなかった働き方改革が一気に進展した。

 ただ会社に行かず対面で人と話す機会が減り、パソコン画面上での打ち合わせ・業務連絡といった、これまでと異なった就労環境は弊害も招いた。日本能率協会が企業経営者を対象に行った調査では、半数近くが環境の変化によって社員がストレスを感じていると捉えている。今後は、さらに社員や職場への影響を考慮した対策を講じる必要がある。

 これら課題を克服し、社員一人ひとりが、より自立的、創造的に仕事を進められる環境を整えるには、健康で精神的にも生き生きとした状態を指し、総合的な生活の質を意味する「ウェルネス」が重要になってくる。ヘルスが病気でない肉体的な健康という意味で解釈されているのに対して、ウェルネスはメンタル面にも比重を置く。

 ウェルネスには身体、感情、社会的、精神、知性、職業、環境の7つの指標があり、それぞれを満たすことが求められる。社員の健康を促進し、効率的な働き方を実現する「ウェルネス経営」も注目されており、指標に沿って企業は従業員の健康に関する数値目標を設定し、日々の施策に落とし込んで実践していく。例えば、従業員のダイエット管理やメンタルヘルス管理など総合的に関与する。

 ウェルネス経営により退職者の減少、医療費の軽減、さらには業務効率が向上し、生産性の向上にもつながるメリットがあるという。長時間労働の問題をきっかけにICTを活用して効率的に働く必要性が叫ばれたことも、ウェルネス経営が注目されるきっかけとなった。

 ウィズコロナ・ポストコロナを見越した企業の経営には、この新たな様式に対応した取り組みが要求される。企業の評価基準としてだけではなく、業務効率化、生産性向上などウェルネスがもたらす利点は大きい。とくに長寿社会の課題を抱える日本においては、避けて通れない条件になるかもしれない。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る