日産化学、日本化薬という日本を代表するファインケミカル企業2社が新規事業の創出に向けた取り組みを強化している。日産化学はアンモニア・硫酸などの肥料や農薬、日本化薬は火薬・染料などの祖業で培われたコア技術を駆使し、半導体材料や動物薬原薬、自動車安全部品などの成長エンジンを次々と生み出して発展してきた。ただ現状、両社ともに5年後、10年後の収益を支える次の成長エンジンが見いだせていないという課題を抱える。そのため両社は同時期に、コーポレート研究体制の大幅な刷新に乗り出した。

 日産化学は、昨年4月に新事業・材料創出の加速を目的に企画本部を新設。傘下に将来のコア3領域の開発を担う情報通信材料開発部、ライフサイエンス材料開発部、環境エネルギー材料開発部などを設置した。これまでも研究者主体の新事業企画部が新事業創出に取り組んできたが、市場をよく知る人材を3材料開発部の部長に抜擢して権限と責任の体制を明確化、新事業開発の成功確率を高める。

 日本化薬は、昨年10月に研究開発本部の組織改編を行った。傘下の研究企画部の下部に、新事業企画グループ、研究戦略グループ、新事業開発センターの3組織を置く体制とした。コーポレート研究は従来、研究開発本部のイノベーション創出研究センターに所属する研究者が、テーマ探索から開発目標設定、事業部に橋渡しするまでの研究開発すべてを担っていた。今回の改編では、研究者らが属する新規事業開発センターは研究開発に専念。新事業企画グループがテーマ探索、開発目標設定、目標の進捗管理などを担う。市場をよく知る人材を充てた新事業企画グループが研究開発テーマの事業化への道筋をしっかりつけることで、新規事業創出を加速させていくのが狙いだ。

 日本のファイン企業は液晶、半導体など、かつて日本が競争力を有していたデバイス産業に材料供給するなかで技術・ノウハウを蓄積。新興国に製造拠点がシフトしても競争力ある材料を供給し続け、成長を維持してきた。ただ、これら材料も現地材料メーカーの台頭が著しい。また国内では自動車産業以外に競争力のある川下産業が育っておらず、水素など環境分野を除くと新規事業のタネを見いだしにくい環境にある。だからこそ、コア技術を駆使しながら自社が勝負できるニッチ分野を素早く発掘できる機能が、従来にも増して求められてくる。

 日産化学、日本化薬両社の機能強化が日本のファイン企業のモデルとなるよう、この取り組みから次の成長エンジンが生まれることを期待したい。

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