企業にとって、新市場の開拓など事業領域を拡大することは重要な経営課題だ。ただ新規製品・技術を開発・提供し、一定の市場シェアを確保するまでに多くの時間と費用を要する。適切なタイミングでM&A(合併・買収)を実行できるとも限らない。そして常に市場環境は変化する。既存事業の継続だけでは企業の成長スピードが鈍り、生き残ることが難しくなる。リスクはあるものの、成功して新たな収益源を確保できれば経営の安定化につながる。

 大阪ソーダは、先進リチウムイオン2次電池(LiB)材料の開発に力を注ぐとともに、次世代電池材料への市場参入を目指している。開発中の全固体電池用超高イオン伝導性ポリマーがこのほど、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業に採択された。また山形大学と共同で同社の特殊ポリエーテルを用いた半固体電池を開発しており、ウエアラブル機器や家電といった小型デバイス用電源のほか、車載用途での展開を視野に入れている。

 石原ケミカルは、隣接分野や新領域への参入を中期経営計画の重要課題の一つに掲げる。主力の金属表面処理剤では、高機能パッケージ基板に使用される電気銅メッキ液などの新製品を市場投入しながら、高付加価値製品へのシフトを加速する。同時に、新たな事業の柱として、導電性銅ナノインクなど先端電子材料市場への参入・市場拡大を図る。また同社では、粒子のサイズや物性値を精緻にコントロールできる独自の銅ナノ粉製造技術を確立しており、こうした得意技術を生かしながら、抗菌・抗ウイルス製品といった新市場への参入を目指していく。

 銀系抗菌剤において国内トップシェアを有する富士ケミカルは、抗ウイルス剤市場へ本格参入する。銀系抗菌剤とカチオンポリマーを組み合わせた無機・有機ハイブリッド抗ウイルス剤の開発に成功した。同剤は、従来の抗ウイルス剤の課題だった耐久性、耐水性、耐変色性、加工性などを改善したのが特徴。建材・内装材、家具、日用雑貨、事務用品といった幅広い用途での採用が見込まれる。

 既存製品や既存事業の展開だけでは、どうしても保守的になり競争力が失われてしまう。企業が安定して成長・発展していくには事業領域の拡大が必須といえる。ただ取り組むべき方向性をきちんと見極めることが重要だ。自社の得意技術を把握したうえで、市場参入の効果や想定されるリスクなどの調査を綿密に行い、経営資源を的確に配分しながら具体的戦略を実行していかねばならない。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る