日米安全保障協議委員会(2プラス2)や日米首脳会談の共同声明で、中国を強く牽制する表現が盛り込まれたことを受けて、日系企業の間には日中関係の悪化を懸念する声が出始めている。一部で2012年の尖閣問題のような深刻な状態に陥るとの観測もあるが、米国との対立を抱える中国の状況は今と昔では異なる。そもそも政治と経済は切り離して考えるべきものであり、したたかな米国企業の対応に学ぶべき点も多い。

 日米政府は3月16日、外務・防衛担当閣僚による2プラス2を都内で開き、共同文書において中国を名指しで言及。中国の海警局の武器使用権限を明確化した海警法の施行に深刻な懸念を示した。また日本時間4月17日に開かれた日米首脳会談では半世紀ぶりに「台湾」の文字が明記されたことで、一部の日本メディアは中国が強く反発していると報じている。

 しかし中国は本当に反発しているだろうか。在中の日本政府関係者など両国に詳しい人の間では「想定内」「許容範囲」との見方が強い。実際、「台湾海峡の平和と安定」という言葉は中国政府自身が使ってきた言葉であり、この表現自体、いかようにも解釈できる。新華社通信など現地メディアは今回の件にほとんど触れていない。足元で過敏に報道しているのは、むしろ原発処理水の方だ。

 人権や安全保障など幅広い分野で米国との対立を深めている中国にとって、日本との関係を悪化させたくないというのが本音だろう。今年は共産党結成100周年。来年、日中国交正常化50周年を控えるなか、両国政府とも波風を立てるのは得策でないはず。先の気候変動サミットへの習近平国家主席の参加には、米国との関係改善の糸口を探りたいとの思惑がにじむ。

 政治において各国が譲れぬ一線を引き、日米が台湾に言及すれば、中国がそれに対して反応するのは過去からの流れだ。こうした政治的立ち位置と経済は切り離して考えるべきものである。当の米国にしても、例えば上海市で毎秋開催されている国際輸入博では、参加国で一二を争う規模の出展面積を確保している。エクソンモービルが広東省で数十億ドルとされる大型石化コンプレックスを計画し、デュポンは張家港市(江蘇省)で新たな接着剤工場を新設することを決めるなど、いち早く経済回復を遂げた中国市場に鼻息を荒くしているのだ。

 尖閣問題以降、冷え込んだ両国関係をつなぎ、草の根の交流を続けてきたのは日中の経済界だった。日本企業は一時の雰囲気に流されず、大局的見地から中国ビジネスに臨むべきだ。

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