2050年カーボンニュートラルに向けた「グリーン成長戦略」と並行し、20年7月に政府方針として掲げられた「統合イノベーション戦略2020」にAI(人工知能)、バイオ、量子技術とともにマテリアルの基盤技術強化が盛り込まれ、改めて素材やマテリアル産業の土台強化、国際競争力向上の必要性が指摘されている。古くは鉄鋼、そして「日の丸半導体」から液晶など、かつて世界に隆盛を誇ったわが国の製造業。現在、世界的に好調な自動車産業が国内の雇用と輸出、そして関連する産業に好影響を与えている半面、欧米の巻き返しや、生産販売で未曾有の3000万台をうかがう中国など、予断を許さない状況が続く。

 そうしたなか、現在も高成長路線にあり「数少ない国際競争力と成長性を残している産業」(業界関係者)の一つがファインセラミックス。政府方針であるマテリアル基盤技術強化にも合致し、環境対応部材や全固体電池の材料として再び注目を集めている。30年ほど前に「ニューセラミックス」ブームが巻き起こって以降、今日までファインセラミックスにかかわる企業や大学、関連団体などが研鑽と努力を重ねてきた。現在の潮流であるカーボンニュートラルも追い風となって、産業として、わが国のマテリアル成長領域で重要ポジションの一角を占めるようになった。

 一部ウェブ媒体などで「EV(電動車)化の進展で自動車向けセラミックス製品が斜陽産業に-」と、勉強不足の短絡的なニュースも時折流れるが、世界市場を見れば、新興国を中心に「ガソリン車」「ディーゼル車」は当面は高成長が続くだろう。これに装着されるセラミック排ガス触媒や各種セラミックセンサーは、複数の日本企業が世界市場を握っており、他国他社の追従を許さない。

 また欧米や中国などグローバル端末メーカーのスマートフォンやタブレットなどの電子部品向けセラミックスも、大半は日系企業が材料を供給している。高機能樹脂など、日系化学企業が高いシェアを持つ端末機器の材料と同じ構図だ。これにカーボンニュートラルの潮流が加わり、環境対応の浄化用フィルターや上水殺菌などでもセラミックス製品が再拡大している。

 非石化原料によるグリーンケミストリーやバイオエコノミー領域となる次代の化学品生産プロセスで、膜など設備の主部材にセラミックスが躍り出ようとしている。SOFC(固体酸化物形燃料電池)やオプトセラミックス(光学透明セラミックス)ほか、注目分野も多い。今後のファインセラミックス産業興隆に期待したい。

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