サムスンディスプレイ(SDC)がこのほど、約30年間続けてきた液晶パネルの生産から撤退した。1990年代に日本が席巻していた液晶パネルは、その後、台湾や韓国に市場が移り、今では中国の独壇場だ。SDCは成長ドライバーを有機ELに定め、付加価値戦略を強める。一方、市場が変化し、対応が求められる日本のディスプレイ材料メーカー。液晶の中国、有機ELの韓国と、二兎を追うのではなく、有機ELに軸足を置くべきではないか。有機ELで中国勢が力をつけるのも時間の問題である。

 SDCは、もとは2020年末で生産を打ち切る予定だった。ただコロナ禍で液晶パネル市況が好転すると生産継続を表明。再びパネル市況が悪化したタイミングで改めて撤退を決断した。同社は、スマートフォン用の有機ELで圧倒的なシェアを握り、タブレットやノートパソコンなどIT向けでも高い存在感を示す。昨年末からは有機ELの大型パネル「QD-OLED」の量産を開始。テレビやモニター向けの展開も始めており、ひと通りの有機ELパネルをラインアップする。

 大型の白色有機ELパネルを手がけ、車載用有機ELに強みを持つのがLGディスプレイ(LGD)。液晶市場を牛耳る中国パネルメーカーを横目に、韓国の2大パネルメーカーは有機EL市場を確実に形成し、差別化を図ってきたといえる。

 多くの日本のディスプレイ材料メーカーは、液晶パネルの中国市場に対応しつつ、一方で韓国の有機EL向けに次世代材料を開発してきた。こうした日本勢の戦略に待ったをかけるのが中国のディスプレイ材料メーカーだ。液晶パネルの重要部材は偏光板とカラーフィルター(CF)で、すでに偏光板は中国メーカーがトップシェアを握るようになった。CF用のカラーレジストも中国勢がシェアを伸ばす。液晶パネルの部材は急速に汎用化が進み、収益化が難しくなっている。

 技術で後れを取ってきた中国のパネルメーカーも有機ELの開発に躍起だ。京東方科技集団(BOE)は白色有機ELの商用化を狙い、華星光電(CSOT)は世界初となる大型の塗布有機ELの事業化を急ぐ。

 スマートフォンは有機ELが浸透したが、ノートパソコンやモニター、テレビの有機EL化は、これからが本番になる。部材は韓国の材料メーカーが力をつけており、とりわけサムスンSDI、LG化学といった系列企業は優位に立つ。欧米の材料メーカーも強力だ。ここで勝ってこそ、ディスプレイ材料事業の持続的な成長が見込める。

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