今年も春闘のシーズンとなった。日本経済団体連合会の中西宏明会長は「2020年版経営労働政策特別委員会報告」の序文で、旧来型の雇用システムである新卒一括採用、長期・終身雇用、年功型賃金などの見直しの必要性を訴えた。日本型雇用の中核をなす部分であり、幅広く、かつ十分に議論がなされることを期待したい。
 報告書では企業活動のグローバル化が進み、人材獲得をめぐる競争が激しくなっていることから、海外への人材流出リスクが高まっている点などを強調している。また、最先端のデジタル技術などで優れた能力・スキルを有する高度人材に対しては、市場価値も勘案した通常とは異なる報酬を提示して採用を行うことが効果的としている。ただし従業員の仕事に対するインセンティブは、金銭による報酬だけではないことも確かだ。何がやりがいにつながるのか、もっと深い議論が必要だろう。
 連合は「日本の企業の99%は中小企業であり、いわゆる正社員以外で働く労働者が雇用労働者の4割を占めるなか『転換期を迎えている日本型雇用システム』という文言自体がミスリーディングと言わざるを得ない」との見解を示している。
 確かに大企業のシステムが、そのまま中小に当てはまるケースは多くなかろう。また、就職氷河期に社会人となり、非正規社員で働く30~40代半ばへの就職支援は喫緊の課題である。この世代はフリーターが52万人、フリーター以外の非正規社員が317万人。ニートと呼ばれる無業者も40万人台という。報告書でも就職氷河期世代への支援に触れているが、人手不足が叫ばれるなか、こうした若年者への教育訓練・能力開発支援、さらに、その後の採用に向けた取り組みも必要だろう。
 一方、政府は2月4日、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする、高年齢者雇用安定法などの改正案を閣議決定した。長寿化に合わせて意欲のある人が長く働ける環境を整えることは重要だが、政府の「年金の支払いを先送りしたい」という本音も見え隠れする。報告書では60代後半の高齢者について、短時間や短日数勤務への希望を踏まえた柔軟な勤務制度の整備や、健康状態や勤務成績を考慮した対象者の基準を設けるといった対応を挙げている。
 19年10~12月期のGDP速報値は、前期比1・6%減と5四半期ぶりのマイナス成長となった。新型肺炎の影響もあり、日本経済は厳しい局面にある。雇用システムを見直すとしても、それにより国民の所得が減り、消費が後退して経済力が衰えるような愚は避けるべきだ。

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