薬剤開発の一つの手段として、有効成分を体内に届ける際、目的となる適切な場所、適切なタイミング、適切な量を調節するためのドラッグデリバリーシステム(DDS)技術がある。その代表的な技術に、油の膜でできた小さなシャボン玉のようなカプセル状の微粒子であるリポソームに有効成分を閉じ込めたリポソーム製剤がある。リポソームの膜の厚さは5ナノメートルほど。リポソーム自体の大きさは10~200ナノメートルのものが一般的とされている。

 リポソーム製剤には、患部に有効成分を直接届けることによって副作用を軽減できるという利点がある。また薬には水に溶けやすい性質のものと油に溶けやすい性質のものがあるが、リポソームの膜は水にも油にもなじみやすい性質を有するため、どちらの薬であっても製剤化しやすい。リポソームの膜は、生体膜と同様に二重構造の脂質膜からできているので、身体になじみが良く、アレルギーの原因になりにくいという優れた点も持っている。

 一方で欠点も、いくつかある。リポソーム製剤の製造には特殊な機械を必要とするうえに評価が難しい。またリポソーム自体は、肝臓や脾臓といった組織にキャッチされやすく、血中での長時間の安定性に乏しい。ただ後者は、リポソーム表面をポリエチレングリコールで修飾する「PEG化」によって克服できる。

 国内に投入されたリポソーム製剤は現在、加齢黄斑変性症治療薬「ビスダイン」、真菌感染症治療薬「アムビゾーム」、乳がん、卵巣がん、カポジ肉腫を適応とした抗がん剤「ドキシル」、膵がん治療薬「オニバイド」の4つと、まだ少ない。ただ開発品目をみると、すでにある低分子抗がん剤をリポソームに封じ込めたものがいくつもある。

 また最近では、低分子抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤などの腫瘍免疫治療薬の2種類の有効成分を、同時に取り込むリポソーム製剤の研究開発も進められている。中分子医薬品の一つ、核酸医薬が大きな期待を集めているが、核酸の体内で分解されやすいという課題を補うため、リポソーム製剤として開発するケースも増えている。

 このようにリポソーム製剤は既存の薬剤の欠点を補ったり、効果を高めたりして再利用可能にするだけでなく、まったく新しい薬剤の開発にも応用され始めている。リポソームに用いるリン脂質や、その誘導体は日本の素材メーカーが強い分野でもある。日本企業の創薬化学者(メディショナルケミスト)と製剤科学者が協力し、日本発の革新的なリポソーム製剤が創出されることを期待したい。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る