持続可能エネルギーとして注目を集める水素。低炭素社会実現を目指し、利活用に向けた取り組みが世界的に活発化している。国内では2016年2月に、技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)が設立された。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて、褐炭(低品位の石炭)を有効利用した水素製造から輸送・貯蔵に至るCO2フリー水素サプライチェーン構築に向けて技術確立と実証に取り組んでいる。現在、HySTRAには岩谷産業、川崎重工業、シェルジャパン、電源開発、丸紅、ENEOS、川崎汽船が参画。30年ごろの商用化を目指している。

 同プロジェクトでは、輸送が難しいことなどから未利用エネルギーとなっている褐炭を有効活用して水素を製造する。褐炭は水分や不純物を非常に多く含むため、重くかさばる割に発熱量が低い。また空気に触れると自然発火する恐れがあり、輸送や保管に適さない。未利用資源の褐炭はオーストラリアのビクトリア州ラトロブバレーでガス化され、水素を含むガスに形を変える。その後、水素精製を経てトレーラーに載せられ、ヘイスティング港で液化されて液化水素運搬船へと積み込まれる。水素はマイナス253度Cの極低温にすることで気体から液体に変わり、体積が800分の1に減少。体積が減ることで運搬効率が飛躍的に向上する。

 液化水素専用の極低温蓄圧式の貨物格納設備として開発されたのが運搬船「すいそ ふろんてぃあ」だ。大量の水素を効率良く安全に輸送するため同運搬船のタンクは真空断熱二重殻構造を採用し、高い断熱性を実現。支持部にはガラス繊維強化プラスチックを用いるなど熱伝導を抑える工夫が施されている。すいそ ふろんてぃあがヘイスティング港から約9000キロメートルの航海を経て到着するのが、日本の受け入れ基地となる液化水素荷役実証ターミナル「Hy touch神戸」。

 同ターミナルは神戸市の沖合に浮かぶ「神戸空港島」の北東部で1万平方メートルの用地に荷役基地として建設。液化水素を長期間、安定的に貯蔵する2500キロリットルの液化水素貯蔵タンクやローディングアームなどが設置されている。船からローディングアームシステムが水素を抜き取り、マイナス253度Cを保ちながら陸上の液化水素貯蔵タンクに充填する。国際水素サプライチェーン構築に向けて、21年度下期には日豪間運航が予定されている。水素が広く一般的に利用される社会の実現に向けて同プロジェクトの成功を期待したい。

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