未来のエネルギー問題について企業トップに話を聞く時、太陽電池(PV)が話題に上ることは、ほとんどない。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)施行以降、世界有数のPV市場になった日本だが、基幹電源とするには不確定要素が多すぎるからだ。
 主力のシリコン系PVの性能は、この10年で飛躍的な進化を遂げている。FIT施行当時、パネル1枚当たりの出力は250ワット前後。今では300ワット超が標準となった。ただ太陽光の力だけで電気を生成するだけに、すべて天候任せとなることが課題。その解としてリチウムイオン2次電池(LiB)を活用した蓄電システムとの併用が進められてはいるが、いまだ高額な蓄電池がネックとなり、本格的な普及にはいたっていない。
 これからの地球環境を考えれば再生エネルギーで100%電力を賄えることが理想だ。サーキュラーエコノミーの重要性が叫ばれる昨今、再エネを主力電源にすることが循環型社会に最も相応しい。しかし、それが現状できないのであれば、局所的なエネルギーの地産地消から進めるべきではないだろうか。例えば天候の影響を受ける屋外ではなく、屋内での適用から始めるべきだろう。
 その屋内環境において優れた発電性能を発揮するのが有機薄膜太陽電池(OPV)だ。シリコン系PVはLED照明下で変換効率が低下するが、変換効率10%程度のOPVは、LED下で高まることが知られている。OPVの本格的な実用化を見据える東レによると、その数値は現状で20%に達するという。
 この性能は屋内のIoT(モノのインターネット)システムに打って付け。使い切りの1次電池を動力源とすると3年程度で電池交換が必要となるが、OPVは約10年の連続稼働が見込まれる。屋内のシステム運用に限定されるが、PVを活用した地産地消に一歩近づく。東洋紡もOPVの発電材料研究に乗り出すなど、屋内光源での適用に商機を見出そうとしている。
 また同じく有機系の色素増感太陽電池(DSC)も注目を集めているPVの一つ。リコーが電解質を固体にすることによって耐久性向上に成功するなど、電池レスシステム用の電源などに活用が期待される。
 環境対策および社会のIoT化を進めていくに当たり、これら有機系PVを活用しない手はない。性能とコスト面の改善、そして顧客獲得など、開発から営業にいたるまで解決しなければならない課題は山ほどある。しかしエネルギー地産地消の第一歩として、本格的な社会実装を期待したい。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る