カーボンニュートラル実現に向け、絶対に欠かすことのできない要因の一つが再生可能エネルギーの普及拡大だ。なかでも太陽電池(PV)は将来の主力電源化への期待も高まっている。日本ではメガソーラー(大規模太陽光発電所)需要が頭打ちとなったものの、産業や住宅用などで中小規模向けで着実に導入実績を積み上げている。

 ただ据え置き型のシリコン結晶系PVだけでは今後、爆発的な普及は望めない。壁面や曲面、あるいは電気自動車(EV)など移動体への適用も含め、条件を問わずPVを設置できなければ、真の普及とは言えないだろう。

 この問題を打破しようとPV業界では近年、ペロブスカイトPVに注目が集まっている。2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授が開発したこのペロブスカイトPVは、有機系に分類される太陽電池。ペロブスカイト結晶で構成される光吸収層を塗布により形成できるため、フィルムに塗るだけでPVを製造可能となる。同じく有機系PVで以前から研究開発が進められている色素増感型太陽電池の亜種ともいえる存在だが、大学などの研究機関では直近7年間で変換効率が約2倍に向上。直近では東芝が多結晶シリコンPVと同程度となるエネルギー変換効率15・1%を達成したと発表した。低コストで高効率な塗布型PVの製造が可能とあって、世界中の大学や企業から短期間で目覚ましい研究成果が相次いで公表されている。

 PVの普及が次のステップに進むためには、このペロブスカイトPVの社会実装が一つの試金石となるだろう。経済産業省の産業構造審議会部会の「グリーン電力の普及促進分野ワーキンググループ」では、次世代型PVとしてペロブスカイトPVを紹介。各国では「シリコンに対応し得るゲームチェンジャー」として将来性に期待を寄せる。そこで官民挙げて研究開発を加速することで「30年度までに一定条件下(日射条件など)での発電コスト14円/キロワット時以下を達成する」といった目標を掲げ、実用化につなげる考えを表明している。

 この実現には同ワーキンググループで有識者が提案するように、ラボレベルでの研究から大型化、実用化にいたる各フェーズで、それぞれに適したプロジェクトをシームレスに実行する必要がある。また取り付け法などを含め、システム全体での低コスト化やエンドユーザーとの連携も念頭に置いた取り組みも求められるだろう。出口戦略を明確に見据えながら、新市場の創出とカーボンニュートラルを実現するPVとして、社会実装化に期待したい。

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