米食品医薬品局(FDA)は、米製薬大手バイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー型認知症薬「アデュカヌマブ」を承認した。認知症薬の承認は2003年以来。症状進行を抑える根本的治療薬として期待される。

 アデュカヌマブの承認は今後、製薬ビジネスのさまざまな側面に大きな影響を与えるだろう。一つはFDAの判断が、医療ニーズと承認の根拠となる有効性・安全性データのバランスを探った点だ。

 アデュカヌマブ承認申請の最終治験は2本実施された。外部監視委員会は試験の途中で解析し、あらかじめ設定した評価項目を達成できる可能性は低いと指摘。これを受けアデュカヌマブの開発は19年3月、いったん中止された。

 バイオジェンなどは、追加データを含めて大規模に解析し直し、一方の試験の高用量投与群で症状の進行を抑制できることを突き止めた。そして開発中止から一転して承認申請へと異例の手続きが進んだ。FDAは優先審査の対象にも指定した。

 治験のデザインや承認の基準は規制当局と事前に協議して決めるが、今回の承認は、あらかじめ設定した要件を完全にクリアしていなくても承認する可能性があることを示唆した。併せてFDAは承認に際し、検証的な臨床試験も求めており、有効性が確認できなければ承認を取り消す方針も示した。

 認知症は20年来、新薬が登場しておらず、がんと並んで極めて医療ニーズが高い。FDAには、承認を早めて、実際の医療のなかで研究やイノベーションを加速したいとの思惑がある。

 もう一つの視点はアデュカヌマブが製造コストの高い抗体医薬ということ。米国の価格は月1回投与で4312ドル(約47万円)、年間で約5万6000ドル(約610万円)に上る。現在、世界では約3800万人が早期アルツハイマー型認知症に罹っており、50年には4400万人程度まで増える見通しにある。抗体医薬は各国の医療財政を苦しめることにならないか。

 高齢化が進む日本でも患者は急速に増える。バイオジェンは昨年末に日本で承認申請を提出した。米国承認を踏まえ日本でも審査が進む。日本の場合、承認した新薬は保険償還するのが通例。認知症向けの抗体医薬は他の製薬会社も追随する可能性がある。

 コロナ後は、医療財政を従来にも増して圧縮しなければならないのは確実だ。高額薬を国民皆保険のなかで、どう受け入れるか。革新性ある医療イノベーションと、いかに両立するか。さまざまな観点の議論をぶつけて答えを導く必要がある。

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