コネクテッドカーへの対応や次世代のモデル都市開発など、自動車をコアに周辺領域へ怒涛の事業展開を相次ぎ進めているトヨタ自動車。新型コロナ感染症の影響下でも、その布石を着実に打っており「つながる」を前提とするキャッシュレス決済サービス「トヨタウォレット」の本格的な市場アピールが中部東海エリアでも始まった。タクシーのPRディスプレイでのデモVTRや街頭広告、au関連の宣伝などで「トヨタウォレット」が連呼されている。世界自動車業界の巨頭、トヨタが電子マネー業界へいよいよ進出した格好にある。
 トヨタウォレットはもともと、全国数千店舗とされる系列の販売店やディーラー、修理工場などで顧客がオプション品の購入や各種サービスを受ける際、キャッシュレス対応したり、ポイント還元したりするのがメイン。いわば自動車販売市場における顧客向けサービスで、自動車購入層を囲い込む一つの手段と捉えられていた。
 トヨタ自動車、トヨタファイナンシャルサービス、トヨタファイナンスの3社がスマホ決済アプリのトヨタウォレットを発表したのは昨年11月。アップル向けに加えて今春から、いよいよアンドロイド向けの提供も始まったため、これを機会に一大宣伝に入った。
 トヨタは、豊田章男社長自ら出演する広告メディア「トヨタイムズ」でも繰り返し「つながる」を強調する。トヨタウォレットも現行の銀行系デビット、携帯系支払いサービス、クレジット系プリペイドのすべての支払いに利用できる仕組みとなっており、多様なシステムにシームレスに「つながる」を実現した。「○×クレジット系のみ」などの囲い込みから、オープン型のキャッシュレスシステムを金融カード業界へ逆に提供したような格好だ。
 トヨタは新しい次代のビジネス実現に向けて「つながる」戦略を最重要視している。むろん5G時代の本格到来に合わせ、すべての車がつながる「コネクテッド戦略」が前提だ。車の販売のみならず、車という単位が生み出すモビリティサービスのプラットホーム、モビリティと社会の全体プラットホーム戦略の一つとして、売買やサービスのすべてにトヨタウォレットを活用する。他社や他業界連携での新しいモビリティサービス提供時にも決済サービスとして使われるだろう。
 一部の金融界などは冷ややかな目で見ているかもしれない。ただ、どの世界もマイナーから始まる。トヨタウォレットがキャッシュレス決済のメジャーになるのか、動向を注視したい。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る