日系化学の生産拠点が多い東南アジア諸国がコロナ禍に苦しんでいる。インドネシアは2四半期連続でGDP成長がマイナスに陥り、アジア通貨危機以来20年以上ぶりに景気後退局面に入った。タイも今年の成長率予測がマイナス4・6%(アユタヤ銀行11月26日発表)と経済の落ち込みが大きい。両国では来年の景気回復を見込むが、成長の壁を破るには経済・社会的な構造改革が必要だ。

 複数の日系・欧米化学企業によると19年までの数年、インドネシアで業績が想定を下回り、むしろ伸びしろを失ったと思われたシンガポールやマレーシアの勢いが強かったという。東南アジア最大の人口を抱えるインドネシアだが、自動車販売や小売り統計をみても経済成長に鈍化傾向が出ていた。停滞は化学品輸入にも表れている。石化製品の輸入超過額は15年まで4年連続で20億ドル以上だったが、16年以降は10億ドル台前半で推移。現地で増強があったとはいえ内需は思うように伸びていない。

 一方、国内感染者がほぼゼロとなったタイだが、政府は非常事態宣言を21年1月半ばまで延長。出張者や観光客の入国を厳しく制限している。そのなかでも化学産業は堅調さを維持。化学品の鉱工業生産指数(16年=100)は6月を底に回復し、9月以降安定して100を上回る。現地大手2社のうちSCGケミカルズの7~9月期純利益は前年同期比8割増。輸出回復や、原料面で同社が多く使うナフサの競争力が相対的に高まったことなどが寄与した。しかし観光業や自動車は大打撃を受けた。また新憲法制定などを求める反政府デモは概ね平和的に継続されているものの、その主張を現政権が受け入れる見込みは薄い。政経両面で緊張が高まり、限界点の訪れが危惧される。

 インドネシアとタイは政治体制も経済水準も異なるが、適正な富の再配分に不可欠な税制整備が不十分で、格差の固定化など成長を阻害する要素は共通する。諸説あるが、クレディスイス研究所によると、域内でタイは最も所得格差が大きく、インドネシアがタイに続く。

 インドネシアでは今年7月、1990年代の大型化学プロジェクトを牽引したある企業の元トップに収賄罪で禁固16年の有罪判決が下った。腐敗撲滅も大きな課題だが、第2期ジョコ政権が投資手続き透明化や規制緩和を推進しているのは朗報だ。タイも「中進国の罠」脱却を言われて久しく、政府主導の経済開発にも限界がある。若年層の不満を解消し成長を再び加速させるため両国は地方格差の是正や機会の平等、民間企業への門戸開放をさらに進めるべきだ。続きは本紙で

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