東南アジア諸国でコロナ禍の収束が見えてこない。マレーシアとインドネシアでは今月に入り、新規感染者数が連日最多を更新し、タイは第2波に見舞われた。いま域内化学産業は中国の景気回復の恩恵を受ける一方、ISOタンクコンテナや労働力の不足など都市封鎖に起因する問題に頭を悩ませている。こうしたなかで、コロナ禍の長期化や新たな感染症の発生など「新常態」を前提に、新たな成長戦略を描く動きが出ている。

 域内では昨秋からコンテナ不足が続き、タイでは昨年のコメ輸出量がここ20年で最低に落ち込む要因ともなった。デンマークの海運情報提供会社シー・インテリジェンスによると、11月に予定通り目的地に到着した世界のコンテナ船は、全体の50%(前年同月は80%)にとどまる。都市封鎖を実施する国もあって経済の不均衡が生じ、長年過当競争に悩まされたコンテナ船各社もスペース増に動きにくいため、旧正月明けも影響が残るとの見方が強い。

 これを受け東南アジアの化学業界では、原料や製品の海上輸送を陸送に変更するケースが増え、原料調達先を日本から域内国に変更しようとする日系企業も出始めた。限界はあるもののサプライチェーンのローカル化が徐々に進んでいる。

 労働力不足も課題だ。シンガポールやタイ、マレーシアでは外国人労働者の寮などからクラスター感染が広がった。これらの国は域内や南アジアからの出稼ぎ労働者なしでは経済が立ち行かないが、新規受け入れが遅延。昨年は工場立ち上げに必要な技術者らも入国制限を受けた。

 こうした事態にデジタル化による省人化で対応する企業が増え、システムインテグレーターには関連の問い合わせが増えたという。投資のサブコントラクターに初めてローカル企業を採用し、工場建設を「現地化」する日系化学企業もあった。

 シンガポールでは昨年、食糧自給率の向上が喫緊の課題としてより強く認識された。食関係のスタートアップ企業も増え、東洋製罐HDは昨年、甲殻類の食用肉を細胞培養で製造する技術を持つ現地企業シオク・ミーツに出資した。コロナ禍が「持続可能な食」の実現を早めるかもしれない。

 同国の次期首相と目されるヘン・スイキャット副首相は先ごろ、将来発生し得る、よりリスクの高い感染症「ディジーズX」に備えた技術革新の必要性を訴えた。東南アジアのGDPは今年4~6%の伸びが見込まれ、長期的な成長性は変わらない。しかし市場は急速に変化する。化学産業も、こうしたトレンドへの対応が必要だ。

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