エチレン誘導品大国となった米国と、製油所・化学工場の統合“CtoC”が進む中国は、化学産業の超大国でもある。こうしたなか日本からみると、東南アジアに生産拠点や市場としての「埋没感」を感じる向きもあるようだ。しかし、同地域の化学産業が実際に埋没してしまっているわけでは決してない。

 マレーシア国営ペトロナスは大型CtoC拠点の稼働を2021年中に控え、タイでは昨年から今年にかけてPTTGC、SCGケミカルズの両大手が分解炉を増強。フィリピンでもJGサミット・ペトロケミカルが大規模投資を完了させた。ベトナムでは韓国・暁星が今夏、プロパン脱水素設備を立ち上げる。

 米中両国間で半導体や医療機器・医薬品市場のデカップリングやブロック化が危惧される中、東南アジアは化学メーカーやその顧客を含め、生産拠点・調達先の分散、多様化を図る企業にとって理想的な拠点になりうる。統計的な裏付けもある。シンガポールでは20年、外国直接投資(FDI)が前年比約4割減ったが、工場や研究所などの固定資産投資は過去10年で最高を記録。最近では仏サノフィと独ビオンテックが大型ワクチン工場の新設を決めた。マレーシアのFDIは19年に米国が、20年は中国が相次いで国別トップに立った。タイでも19年、中国が日本を抜き初めてFDI国別1位となった。

 確かに懸念は残る。まず長引くコロナ禍だ。マレーシアは6月1日から2週間の全土都市封鎖に入り、タイはワクチン接種の遅れが指摘される。ワクチンパスポート制度開始に向け域内諸国が連携する兆しもあったが、今は変異株による感染再拡大への対応で各国が精いっぱい。域内には、GDPの2割強を占めるタイを筆頭に観光業のウエートが高い国が多く、長引く入国禁止措置や活動制限が潜在成長率を下げる可能性もある。またミャンマーやタイの政治的混乱は短期の収拾が見込みにくい。

 ただ、域内化学産業は持続的成長に向け着実なステップを踏んでいる。まずコロナ禍で、経営や設備運営のデジタル化が急速に進展。シンガポールでは炭素税が導入される一方、グリーン水素やその貯蔵・輸送に関する技術開発が本格化しつつある。早晩、タイやマレーシアなどもカーボンプライシングの現実的な検討に入るだろう。

 コロナ禍を脱する頃、東南アジアの化学産業の様相は大きく変化していることが予想される。日系企業も、同地域で特色あるデジタル化や持続可能性に関する取り組みを加速し、サプライチェーン変革後のさらなる成長を目指すべきだ。

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