総合商社の化学品部門が、化学業界の枠組みを越えてビジネスを創出する動きが加速している。化学業界のなかで総合商社が担ってきたトレーディング機能は、日本の化学メーカーのグローバル化、競争力向上にともない重要性が低下している。一方、総合商社はビジネスを通じてあらゆる産業と接点を持つのが強み。それを武器に化学素材から生まれる技術、サービス、知見を他の産業に応用展開し、新たな高付加価値ビジネスを創出しようというわけだ。

 こうした「Beyond Chemical」(ビヨンド・ケミカル)といえる動きの先頭を走るのが伊藤忠商事だろう。同社の化学品部門が手がけてきた蓄電池ビジネスは、収益の柱の一つとして大きく成長。家庭用リチウムイオン蓄電システム「スマートスターL」の国内市場シェアは約20%と、業界トップクラスを誇る。

 伊藤忠が蓄電池ビジネスを立ち上げた契機の一つは、電気自動車(EV)市場の拡大を見据えて、部材を含めたリチウムイオン電池(LiB)関連ビジネスのバリューチェーン構築に取り組んだこと。自動車・電池産業の動向に左右され大きな実を結ぶにいたらなかったが、得た知見を生かし、より川下でビジネスの主導権を取りやすい家庭用蓄電池に狙いを定めた。ビジネスが花開き、存在感が増したことで電池メーカーとの関係も強固になり、既存のLiB部材トレードも拡大するなど好循環が生まれている。今年4月には、化学品部門の蓄電池ビジネスとエネルギー部門の電力トレードなどを統合し「電力・環境ソリューション部門」を新設した。化学品の枠組みを越え、電力ビジネス全体として、さらなる強化に取り組む方針だ。

 他の総合商社でも、こうした動きが活発化している。三井物産の化学品部門は、病院事業を手がけるヘルスケア部門などと連携し、未病・予防分野で科学的根拠に基づいた商品、サービスの創出に取り組んでいる。丸紅の化学品本部も、人工知能(AI)を活用した診断支援製品を提供する新会社を設立するなど、デジタルヘルス分野に力を注いでいる。

 伊藤忠7代目社長の米倉功氏は「現状維持は、すなわち、これ脱落である」という言葉を残した。総合商社のビジネスは放っておくとすぐ陳腐化する。だから常に自らを変えることで新たなビジネスを創出し続けなければならない-と解釈できる。化学品部門の他産業での取り組みが、日本の化学メーカーにも好影響を与えることを期待したい。自己変革力は化学にも求められているのだから。続きは本紙で

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