新型コロナウイルスの感染拡大を機に進んだ生活様式の変化が、ニューノーマル(新常態)に向かうなかで徐々に定着しつつある。百貨店などの店頭で、美容部員が接客しながら顧客に合った商品を提案する対面販売が難しくなった化粧品業界でも、デジタルを活用したサービスの充実が一段と進む。各社は肌に直接付けたり触れたりしない、顧客との新たな接点のあり方を模索。インバウンド(訪日外国人)需要が消失した業界の再成長につなげる意味でも、非接触ニーズへの積極的な対応が望まれる。

 日本の化粧品業界には、高価格帯化粧品の販売に適した「制度品流通」という独特のシステムがある。メーカーが取引契約を結んだ小売店にカウンセリング販売を行う美容部員を派遣。高度経済成長にも後押しされ、業界全体の成長をもたらした。顧客はメークや肌の手入れが学べるほか自分の顔や肌質に合った商品が選べる。「日本の化粧品大手は、この対面販売に支えられ高いブランド価値とサービスを維持してきた」と、業界に詳しいフロンティア・マネジメントの三浦充美シニア・アナリストは言う。

 コロナをきっかけに顕在化した変化の予兆を捉えることは持続的成長への解の一つになる。そのなかで9月中旬に一部で導入を始めたコーセーの新たなカウンセリング手法が注目されている。ウェブを使ったシステムで、高解像度な動画を滑らかに表示。それまでのテレビ会議システムでは難しかった化粧品特有の繊細な色や質感を、画面上で伝わりやすくした。

 顧客はスマートフォンから専用サイトにアクセスし、カウンセリングを受けたい美容部員の予約を30分枠で取ることができる。オンラインの活用は時間や場所を問わず、自分の都合に合わせて化粧品のカウンセリングや購入を行いたい顧客からも好感を持たれるだろう。

 非接触型のカウンセリングサービスは、美容部員の新たな働き方を創出するうえでも重要な視点となる。従来の接客が派遣先の店舗に限定されるのに対し、コーセーの新システムに携わる美容部員は、国内の東西2カ所に設けた専用のサービス拠点から全国の顧客に遠隔で対応。将来的には社員一人ひとりの生活スタイルや希望に合わせ、時間に制約されずフレキシブルな働き方を目指すとしている。

 政府の働き方改革の推進などにともない、女性の多様な働き方を尊重する機運は年々高まっている。化粧品業界の潮流は、社会課題の解決と事業の成長を両立する新たな機軸となるか。今後の動向に注目したい。

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