新型コロナウイルスのワクチン接種が進む米国などで景気が持ち直し、輸出が回復していることなどを背景に大企業を中心とした景況感が好転している。低迷していた非製造業でも底打ちの兆しがみえてきた。ただ米中の需要増などから原材料価格が高騰し、感染再拡大も懸念される。本格回復に向けては不透明感も強まっている。

 日本銀行が先に発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、代表的指標である大企業製造業の業況判断指数(DI)が前回調査の3月から9ポイント改善してプラス14ポイントとなり、4期連続で改善。化学や電気機械など14業種で改善した。飲食や宿泊など非製造業も5期ぶりにプラスに転じ、低水準ではあるが底打ちへの期待が示された。

 日銀短観は国内の約9400社を対象に3カ月ごとに景気の現状などを尋ねている。景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」とした企業の割合を差し引いたのがDI。今回調査は5月下旬から6月末にかけ行われた。

 大企業の製造業はプラス14ポイントとなり、2018年12月以来、2年半ぶりの高い水準となった。ワクチンの職域接種の開始時期と重なったこともあるだろうが、改善は4期連続となり、海外経済の回復にともなう輸出の増加や円安などが後押しした格好だ。

 一方、大企業の非製造業はプラス1ポイントとなり、前回のマイナス1ポイントから小幅改善、昨年3月以来、5期ぶりプラスに転じた。ワクチン接種の進展による消費の回復期待が高まっており、テレワークの普及などにともない、通信や情報サービスは引き続き大幅なプラスが続く。他方、小売りは特需の一服感からか景況感が悪化。宿泊や飲食サービスも厳しい状況が続きそう。

 今回の短観で顕著になったのが、世界経済の回復にともなう原材料価格の上昇だ。製造業で仕入価格が「上昇している」と答えた企業の割合から「下落している」と答えた企業の割合は、大企業でプラス29ポイント、中小でプラス43ポイントとなり、ともに前回調査から14ポイント上昇した。

 販売価格については、上昇から下落を差し引いた指数が大企業でプラス4ポイント、中小でプラス5ポイントにとどまるなど、販売価格に転嫁し切れていない状況がうかがえる。

 国際的な原油価格の上昇を受けて燃料費なども上がっている。油価の上昇は素材産業には一長一短あるが、中小企業にとっては原材料価格の上昇は経営を圧迫し、賃金や雇用削減の要因にもなりかねない。急激な上昇リスクに備えた値決め方式の見直しや、デジタル技術を活用した生産性の向上などが求められる。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る