政府は2020年10月に50年カーボンニュートラル宣言を発表し、これを実効あるものとするために今年、3つの政策決定をする。20年12月に実行計画として発表したグリーン成長戦略は、6月をめどに、より詳細な内容を盛り込んだものを発表する。エネルギー基本計画は夏頃をめどに第6次計画がまとめられる。17年に策定された水素基本戦略も見直される予定だ。カーボンニュートラルを実現するうえで水素エネルギーの重要性がますます高まっており、世界に遅れることなく社会実装が進められることが望まれる。

 日本は世界で初めて国家レベルで水素戦略を策定した。水素製造・利用技術開発に着手し、とりわけ海外から大量の水素を輸入可能にする水素キャリアの開発でリードしているとされていた。しかしグリーン水素製造に不可欠な再生可能エネルギーのコストダウン、普及は、欧州や中国などに大きく遅れをとっている。

 20年は水素をめぐる各国戦略の転換期とされ、EUは7月に水素戦略を発表している。24年までに水素製造に必要な電解槽を6ギガワット設置し、100万トンの水素を製造する。40年までに、それぞれ40ギガワットと1000万トンに引き上げる。再エネや水素への投資を加速化させるため、各国政府、産業界、市民が参加する「欧州クリーン水素アライアンス」を立ち上げた。

 フランスは6・5ギガワット、ドイツも5ギガワットの目標を設定している。水電解装置については、日本は福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)に世界最大の10メガワット級の装置を用いた実証試験を進めているが、それ以上の大型化に向けた検討では欧州が進んでいるとされる。中国でも燃料電池自動車(FCV)の累計販売台数が日本の1・5倍の7200台に達するなど、水素普及のための政策が進められている。

 さて日本である。欧州、中国に伍していける次の一手が求められる。日本はこれまで多くの技術開発、実証事業を進めてきた。メチルシクロヘキサン(MCH)による水素輸送実証は成功し、液化水素専用船による実証も今年度行われる。燃料アンモニアに関する実証や調査事業も進められている。利用技術でも発電燃料としての開発が進んでいる。

 開発した電解装置、水素キャリア、発電などの技術を海外市場で普及させ、日本企業の存在感を高めることが重要だ。水素エネルギーは欧州、中国に限らずアジアでも関心が高まっている。海外市場の獲得に向けて道筋を示した国家戦略を期待したい。

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