経済産業省は先ごろ、中長期的なエネルギー政策の方向性を示す第6次エネルギー基本計画の素案を発表した。2050年のカーボンニュートラル実現への中間目標である「30年度に13年度比で温室効果ガス(GHG)46%削減」に向け、再生可能エネルギーの大量導入、水素・アンモニアの社会実装など「野心的な目標」を盛り込んだ。

 素案で発表した30年度の電源構成では、再生エネは現行目標の22~24%から36~38%に引き上げた。原子力は20~22%と現行目標を維持したほか、燃焼時に温暖化ガスを排出しない水素やアンモニアによる発電を新たに設けて1%とした。火力発電は現行目標56%を41%に引き下げた。

 再生エネや原子力など脱炭素電源は合計で59%となる。とくに再エネを「再優先の原則で取り組み、最大限の導入を促す」と明記。30年度の発電量を3300億~3500億キロワット時に引き上げ、19年度比で約2倍の水準にしていく方針だ。

 ただ再エネ大量導入の実現には課題も多い。まずは切り札となる太陽光の適地が日本で少なくなりつつあるほか、余剰電力を貯蔵するための蓄電池の普及も道半ばだ。これらの課題解決には化学産業が技術力を発揮し、軽量で折り曲げられ、ビルの壁や耐震性の低い工場の屋上などにも設置できるペロブスカイト太陽電池の開発を加速する必要があるだろう。蓄電池のコスト低減などを通じた普及加速でも、主要素材を供給する化学産業の力なくしては成しえないものだ。

 水素・アンモニアの社会実装に向けても、国際サプライチェーン構築のほか、国内に余剰再エネを活用した水素製造の商用化が欠かせない。化学産業は水電解装置のコスト低減、光触媒を利用した水素製造などで技術力を発揮していくべきだろう。

 火力発電でも脱炭素型への移行に向け、アンモニア・水素混焼のほか、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)、カーボンリサイクルなど化学分野のイノベーション創出が期待されている。

 GHG多排出産業である化学にとって、30年度46%削減という政府目標は高いハードルである。個社単位では製造プロセスや原料の転換など、それにともなう負担が重くのしかかってくることだろう。ただ目標実現の切り札となる再エネの最大導入や、水素・アンモニアの実装などに、化学産業によるイノベーションが必須であり、産業として果たすべき役割は、ますます大きくなるだろう。脱炭素化の潮流を好機に変えていくことができるか。化学の底力を見せる時が来た。

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