欧州ではエネルギー・化学大手が、再生可能エネルギー由来水素(グリーン水素)の製造やCCS(CO2の回収、貯留)、またそれらの複合プロジェクトを相次いで打ち出している。欧州連合は今春、野心的な温室効果ガス(GHG)排出削減目標を打ち出し、企業もこれに沿ってGHG削減に取り組む姿勢。北海の風力由来電力で水素を製造、その際排出されるCO2を回収・貯留する計画が多い。化学企業にとって新たなサプライチェーンの構築ともいえるこうした投資を実現する上で、電力・エネルギー企業や他の製造業との連携が重要性を増している。

 欧州連合は4月、2030年までにGHG排出量を19年比55%削減する目標を打ち出した。産業界は燃料や熱源の再エネやグリーン水素への転換、CCS、原料のバイオマス化などを通じ、目標達成に寄与したい考え。化学産業では、エチレン設備熱源の再エネ転換もテーマになる。

 原油、ガス産出で欧州経済を支えた北海でいま、世界最大級の洋上風力発電投資が目白押しだ。デンマークの電力大手オルステッドは今春、オランダ領海で2ギガワットの風力発電所を新設し、電力を自前の水電気分解設備で使用、水素を製造する計画を発表した。ノルウェー国営エクイノールも英国領海で3・6ギガワットの風力発電所を計画。英BPは北海の風力由来電力を活用し英国東部で水素を製造、電解設備からのCO2を回収・貯留する。英蘭シェルは英国でグリーン水素とCCSの複合プロジェクトに参画する。

 こうした計画にはエネルギー大手や製造業など複数の企業が関わり、地域産業全体のGHG排出削減を目指している。例えばオルステッドは水素を蘭、ベルギー両国の化学工場や製鉄所に供給。需要家は互いの工場をパイプラインで連結し水素を融通し合う。またダウは、風力由来電力をエチレン設備に使う。

 エボニック インダストリーズやコベストロなど欧州化学企業がいま異業種との連携をうたうのは、循環経済確立に当たり、従来のユーザー企業との連携に加え、上流企業や他の製造業との連携も意識するがゆえだろう。

 グリーン水素の投資は巨額で、例えば天然ガス由来メタンを改質する既存の水素製造法に比べ、再エネ由来電解法のコストは2~3倍とされる。しかしドイツ化学工業協会は、40年までに世界の電解能力は現状比1000倍に達し、生産コストも下がると予測する。アジア太平洋地域でも国や業種の枠を超えた水素製造・CCS投資と、これに対する日本企業の積極的な関与を期待したい。

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