厳しい事業環境への対応とともに、将来の成長に備える取り組みを続ける欧米化学企業が目立っている。設備投資の抑制や人員削減などを通して現在の環境に対応し、M&A(合併・買収)によって成長の基盤を固めることが施策の中心だ。景気減速時にコスト管理を徹底することは常套手段だが、こうした時期にM&Aで事業を組み換える企業の動きに注目したい。

 アルケマからメチルメタクリレート(MMA)とポリメチルメタクリレート(PMMA)事業を買収することで合意した米トリンセオは、その一社。買収だけでなく、合成ゴムからの撤退を検討することも明らかにしている。2010年のダウ・ケミカルからの分離・独立以降、新型コロナウイルスの感染拡大が続き、景気動向が不透明ななかで、初めて大掛かりな事業転換に乗り出すのである。

 フランク・ボジッチ社長・CEO(最高経営責任者)は「この買収は収益性が高く、景気循環に左右されにくいソリューション・プロバイダーになるためのポートフォリオ変革の契機」と強調する。事業の利益率への評価に加え、ポリカーボネート、ステレン系樹脂、ラテックスといった主力事業との相乗効果も見込んでいる。

 アルケマは、スペシャリティマテリアルズに経営資源を集中する方針の下、MMA・PMMA事業を手放す。同事業の20年の売上高は5億1000万ユーロ、EBITDA(金利・税・減価償却費計上前利益)は1億2200万ユーロに達したとみられる。過去最高のEBITDAは1億6000万ユーロであることから、コロナによる厳しい環境下でも高い収益水準を保っている。

 それにもかかわらず売却するのは「技術力に裏打ちされた事業で足場を固めるため」とティエリー・ルエナフ会長・CEOは明かす。持続可能で高機能な製品群を持つ同事業が、トリンセオの下で、より多くの成長の機会を得られる-との見通しも売却の背景という。

 ほかにもM&Aは活発だ。コベストロによるDSMのレジンズ&ファンクショナルマテリアルズ事業の買収、コロナ禍以前の19年12月に合意していたIFFとデュポンのニュートリション&バイオサイエンス事業の統合などが進んでいる。

 このうちIFFは2月1日の統合完了に先立ち、売り上げ成長、収益性、フリーキャッシュフローなどの目標を含めた新たな経営計画を発表した。新しい体制に移行する際、社内外のステークホルダーと目標を共有することは厳しい状況下でこそ大切だ。この動きが広がることを期待したい。

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