九州地方、そして中部地方が豪雨に見舞われた。昨年は房総半島台風、東日本台風と2度にわたり大型台風が上陸。一昨年の7月豪雨では、岡山県、広島県、愛媛県を中心に多くの犠牲者が出た。個々の気象災害と地球温暖化との関係を明らかにすることは難しいが、地球温暖化の進行にともない、豪雨災害や猛暑のリスクがさらに高まることが予想されている。気候変動は、喫緊の課題である新型コロナウイルス感染症対策と同様に人命に関わる問題だと改めて気づかされる。

 政府が6月に閣議決定した2020年版「環境白書」では、国内外で深刻な気象災害が多発するなか、気候変動を政府文書として初めて「気候危機」と表現し、人類やすべての生き物にとっての生存基盤を揺るがされている現状に警鐘を鳴らした。気候変動対策の国際的な枠組みであるパリ協定の本格的な運用が始まる今年を、地球環境問題への取り組みを強化する節目の年と位置付け、政府や企業ばかりでなく、国民一人ひとりに向けても行動変容を通じた社会改革への貢献を求めている。

 新型コロナ対策と経済復興、さらに気候変動問題は、必ずしも対立するものではない。人の移動を制限したことでCO2排出量は大幅に削減された。IEA(国際エネルギー機関)は年間で前年比約8%もの記録的な削減になるとの見通しを発表。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)では「再エネへの大型投資により50年までにエネルギー関連のCO2排出量を70%削減するには19兆ドルの追加費用がかかる」「世界のGDPを98兆ドル押し上げる効果がある」と見込んでいる。

 世界の気候変動対策は揺れている。先頭を走ってきた欧州では、欧州委員会が対策を経済復興の焦点にした「グリーン・ディール」を進めようとする一方で、経済界は景気回復優先のため対策の後回しを求めている。ドイツは脱石炭計画に関する決定を延期。オランダも「新気候プラン」の採択を先送りした。米国は、再エネ業界の働きかけにも関わらず、コロナ対策予算に再エネ支援を入れ込まなかった。中国は5月に開いた全国人民代表大会(全人代)で引き続きクリーンな石炭利用、再エネ発展について言及したにとどまり、コロナ禍によるエネルギー政策の変更はみられない。

 新型コロナの感染拡大が止まらない現状において、患者の治療や予防が最優先課題であることに間違いない。しかし失業者が増えており、経済の立て直しを急ぐ必要がある。だからといって気候変動問題を置き去りにするわけにもいかないのだ。

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