2018年度の日本の温室効果ガス(GHG)排出量は12億4000万トンで、前年度比3・9%減少した。再生可能エネルギーの導入拡大などによる電力由来のGHGの減少、省エネや暖冬によるエネルギー消費量の減少が要因という。14年度以来5年連続の減少で、13年度に比べると12・0%減った。日本はパリ協定で30年度に13年度比26%の削減目標を掲げている。

 パリ協定の目標は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べ2度C以下に抑えること。この目標に向けて締約国は30年の排出削減目標を提出しているが、これをすべて達成しても2度C以下には抑えられない。今年はパリ協定が本格的に動き出す年であり、11月開催のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)での議論が注目を集めていた。

 ただ新型コロナウイルスの蔓延によってCOP26が延期されることが決まった。また治療薬やワクチンの研究開発が喫緊の課題となるなかで、低炭素化・脱炭素化に向けた研究開発が後回しにされたり、大恐慌以来という不況によって研究開発投資自体が失速することが懸念される。気候変動枠組み条約事務局のエスピノサ事務局長は「新型コロナは最も緊急な脅威だが、気候変動が最大の脅威であることを忘れてはならない」と警鐘を鳴らす。

 一方で、新型コロナ感染拡大がGHG排出量を世界的に減らしていると報告されている。経済活動の停滞が、その理由だ。リーマン・ショック時にもみられたことで、一時的なものとの見方が大半。新型コロナ終息後に活発化する経済活動でGHG排出量は急増するとみられる。

 テレワーク進展というリーマン時にはなかった要素は、人々の意識変革も含め今後の低炭素化の進展に大きな影響を与えそう。経済のV字回復を優先し気候変動問題への意識が希薄になるとの見方もあるようだが、この数年で大きな波となったESG投資の機運が萎むとは思えない。投資を呼び込むという意味でも、技術開発を含めた気候変動対応が今まで以上に重要になるだろう。

 削減目標を引き上げなければ気温上昇を2度C以下に抑えられないと分かっていることを考えれば、従来の延長線上にない技術の創出が不可欠だ。排出されたCO2を炭素資源として回収し再利用する「カーボン・リサイクル」技術などに期待したい。気候変動問題と廃棄物問題の双方に寄与できる廃プラの水素化技術の進展も望む。そして気候変動は感染症のリスクも高める。対策の手を緩めてはいけない。

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