気候変動対策が各国の国際競争力に直結しようとしている。欧州は、ポストコロナ復興計画予算において7年間で約70兆円をグリーンリカバリーに充当する。英国は2030年までに40ギガワットの洋上風力発電、5ギガワットの低炭素水素製造能力などを内容とするグリーン産業革命を発表している。バイデン政権の誕生で米国はパリ協定に復帰する見通しで、2兆ドル規模のクリーンエネルギー投資を行う。中国は60年のカーボンニュートラル実現を表明した。温暖化対策によって経済成長を推進しようとする方向が鮮明だ。

 日本はといえば、菅総理が10月26日の所信表明において50年のカーボンニュートラルを宣言し、梶山経済産業大臣がカーボンニュートラルに必要な水素、カーボンリサイクルなど重要分野について実行計画を年末までにまとめると言明した。

 日本でカーボンニュートラルを実現するには、18年に4・5億トンのCO2を排出している電力部門のほぼすべてを非化石電源(再エネ、原子力、火力+CO2貯留、水素・アンモニア)で代替し、合計6・1億トンを排出している民生・産業・運輸部門は電化、水素還元製鉄、合成燃料・ガス、バイオマスに原燃料を転換しなくてはならない。それでも化学・鉄鋼などに残る脱炭素できない領域は、植林のほか、BECCS(バイオマス発電+CO2貯留)などのネガティブエミッション技術を用いなくてはならない。

 グリーンイノベーション戦略推進会議が司令塔となって「ビヨンドゼロ」技術の確立を目指す革新的環境イノベーション戦略が進められているが、技術開発と並行して、その技術を社会実装していかなくてはコストが下がらない。CO2フリー水素のコストを確実に下げるには大規模水素発電所で燃料に用いることだ。

 成長戦略会議が12月1日に発表した実行計画には、これまでの技術開発支援ではなく、国が定めた30年の技術目標達成のコミットメントを開発企業に求め、継続支援を行う基金を設けるとの記述が入った。

 また経産省が電力会社、自動車会社に温暖化ガス排出枠制度を導入する検討に入ったとも報じられている。欧州は欧州連合域内排出量取引制度(EU-ETS)を05年に導入しており、21年からはフェーズ4に入る。対象は石油精製、セメント、ガラス、セラミックなど。化学関連ではアジピン酸、硝酸、アンモニア、高分子、水素・合成ガスなどの製造施設が含まれる。日本の化学企業も、排出量の上限を設定される日が来ることを想定する必要がありそうだ。続きはこちら

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