政府の2050年カーボンニュートラル目標が打ち出されて以降、上場・非上場問わず製造業・各種企業がカーボンニュートラルの長期戦略、脱炭素化のロードマップなどを相次ぎ発表している。カーボンニュートラルには原燃料の転換やCO2排出源の削減ほか、多くの解決すべき課題がある。同時に次代のエネルギー源の一つ、水素を本格的に社会実装する機会でもある。現在、水素社会へ向けたビジョンなどを欧米各国、アジアでも中国やシンガポールが打ち出し、わが国も水素戦略のロードマップを公表している。

 ただ再生可能エネルギーでも言われることだが、水素の循環利用も広域展開ではなく、中小帯域限定かつ地産地消型、地域サイクルを念頭とする域内グリッド型が最も効率的であろう。とくに水素は保管や貯蔵、輸送時など気体特性から安全面に特段の配慮と対策が必要になる。太陽光発電やバイオマス発電などと水素エネルギーを組み合わせたミックス型の再生可能エネルギー源として、一地域・エリアごとに構築されるかたちが見えつつある。

 そうしたなか現在、国内最多の約30カ所の水素ステーションを有する愛知を中心に三重、岐阜の中部圏3県が水素利用の社会実装で大きく動きだそうとしている。同ステーションは燃料電池車(FCV)などの普及拡大を背景に相次ぎ整備され、中部に地盤を置く東邦ガスも「今後も(地域内で)水素ステーションを増やす」としており、さらに設置が広がる動きにある。同社の冨成義郎社長は「今は車両向けステーションが社会実装の代表だが、水素のボリューム拡大やCO2削減には産業用・工業用の普及が不可欠」とし、詳細はまだとしながらも「工業用途で当社も水素関連の大規模な計画を進めている」と話す。中部地域が水素の産業利用で国内で先んじる可能性もある。

 実際、コロナ禍で影が薄くなったが、中部セントレア国際空港では20年春から、空港内施設でバイオマス発電と組み合わせた水素の循環利用実証を始めている。また愛知県の一部地域では、木質バイオマス発電と水素の再生可能エネルギー実証も本格化する予定。適度な人口で平野部も多く、産業集積度は全国一の中部エリアは、再生可能エネルギーの実装に最適と言われる。トヨタ自動車、東邦ガスほかが参画する「中部圏水素利用協議会」は、30年時点で中部地域で約11万トンの水素需要を見込む。これは同年時点で日本全国で見込まれる需要の約3分の1と膨大なもの。「水素社会実装の中部」という新たな地域ビジョンが鮮明になってきた。

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