新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の水素エネルギー関連の大型実証プロジェクトが、プラント建設を終えて本格実証段階に入っている。政府の水素・燃料電池戦略ロードマップでは、2030年ごろに水素供給コスト30円/ノルマル立方メートルを実現するとされ、そのための水素製造技術、輸送・貯蔵技術、水素発電技術などが今年1年かけて確認される予定となっている。ロードマップが示す道筋が実現できるのかの試金石である。
 NEDOは複数の水素実証事業を実施している。水素キャリアでは、豪州から液化水素を輸送する川崎重工業を中心とするプロジェクト、ブルネイからメチルシクロヘキサン(MCH)を輸送する千代田化工建設を中心とするプロジェクト-の2つの国際サプライチェーン実証が行われる。
 水素エネルギー社会実現の前提は、安価な水素を大量に調達することだ。海外には炭化水素由来、あるいは再生可能エネルギー由来の大量の水素資源が存在するが、それを日本が利用するには安全かつコスト競争力ある水素の輸送・貯蔵技術が不可欠になる。
 水素発電は三菱重工業、コージェネレーションは大林組が取り組んでいる。やはり水素キャリアであるアンモニアを発電燃料に用いる技術開発は、IHIなどの手で進められている。
 水素は、変動の大きい再生可能エネルギーの電力を吸収する機能も注目されている。再エネの系統への接続を容易にし、その導入拡大につながる。福島県浪江町に置かれた世界最大級の水素製造設備「福島水素エネルギー研究フィールド」(FH2R)では、東芝などが参加し、太陽光発電による電力を水素に変換・利用する効率的なシステムが実証される。
 経済産業省が、これらの実証事業を開始した16年当時は、日本が水素エネルギー社会実現に向けて先頭を切っている感があった。それが現在では様変わりした。風力発電が普及して安価な再エネが得られる欧州は、電気を水素やメタンに変換するパワー・ツー・ガス(P2G)技術で先行する。米国、中国、シンガポールなども国情に合わせ取り組みを進めており、石油、ガス、石炭の供給国である豪州や中東は、水素の供給にも意欲を示している。
 世界的に開発・実証が進められているのを見聞きすると、着実に水素エネルギー社会実現に向かっていると実感する。日本は技術協力、資源調達などの国際ネットワークを構築し、国内にこだわらず、世界で社会実装を進めていくべきだ。

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