百年に一度の変革期を迎えたと言われる自動車産業。二酸化炭素(CO2)排出の削減に向けて、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)などの環境対応車への取り組みを加速させている。激変する自動車産業で、最も危機感を抱いているのが自動車部品メーカー、とくに内燃機関(エンジン)系部品メーカーだ。EVやFCVによって動力源がエンジンから電気モーターに変われば、ビジネス自体がなくなるからだ。これは部品メーカーにとどまらず、素材を含めたサプライチェーン全体に影響が及ぶだろう。

 こうしたなか、ガソリンの代わりに水素を直接燃やすエンジンである水素内燃機関に注目が集まっている。水素は燃焼にともない、空気中の酸素と結びついて水になるためCO2を排出しない。内燃機関の技術がそのまま生かせるため、国内関連産業の空洞化を防げるというメリットがある。

 昨年11月には元東京都市大学准教授の山根公高氏が中心となり、水素内燃機関の事業化を推進するスタートアップ「iLabo」(アイラボ、東京都中央区)が設立された。米半導体製造装置大手アプライド・マテリアルズの日本法人トップを務めた岩崎哲夫氏が会長に就任するなど、錚々たる顔ぶれが経営陣として名を連ねた。

 水素内燃機関は、とくにパワーハングリーな大型トラックやバスなど商用車のほか、船舶、重機、発電機などで大きなメリットを発揮するといわれる。これらのCO2排出量は自家用自動車より多く、水素内燃機関が普及すれば、それだけCO2削減効果も大きくなる。

 iLaboは水素内燃機関の事業化に向け、大学などのアカデミアのほか、部品・素材メーカー、車両開発会社、ガス供給会社などや幅広い業種の企業とコラボレーションを進める方針だ。志を同じくする企業などから優れたアイデアや情報を集め開発、生産、販売などで水平分業体制を構築するための場を提供する「プラットフォーム型企業」を目指している。

 日本における自動車関連産業の就労人口は約550万人と国全体の約1割を占める。そのなかで内燃機関に携わってきた部材メーカーの比重は決して小さくない。このまま、すべて電気モーターに置き換わるなら、内燃機関にかかわる多くの雇用だけでなく、モノづくりの技術・知見も失われるだろう。それら部材メーカーにとって、水素内燃機関なら自分たちの技術がそのまま生かせる可能性がある。水素内燃機関が日本のモノづくり技術の維持、雇用確保の救世主になることを期待したい。

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