政府は2兆円のグリーンイノベーション(GI)基金を活用した研究開発プロジェクトの第1弾として、水素関連分野に10年間で3700億円を投じる計画をまとめた。内訳は大規模水素サプライチェーン(SC)構築に3000億円、水電解装置の開発に700億円となっている。欧米、中国では水素エネルギー実用化に向けた取り組みが加速している。日本は開発で先行していたが、いぜん優位性があると言いにくい状況になってきた。技術開発にとどまらず、社会実装を妨げている障害を取り除くことも重要だ。

 発電燃料に用いるには大量の水素が必要だが、日本は再生可能エネルギーのコストが高く、海外からの水素調達に頼らざるを得ない。大量輸送技術が必須となるが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)で5年間、メチルシクロヘキサン(MCH)および液化水素の国際サプライチェーン実証事業を行ってきた実績がある。MCHについては、すでに完了しており、液化水素も今年中に豪州から専用船で輸送される。

 両技術とも水素キャリアとしての機能を果たすめどが立ちつつある。コストの一層の削減という課題はあるものの、水素発電などの需要が立ち上げれば、アンモニアとともに脱炭素社会実現に向けたニーズに応えられそうだ。日本同様に海外水素に頼らざるを得ない国、あるいは豊富な水素資源を抱え、輸出国としての地位確立を目指す国などからも要望はあるだろう。

 MCHと液化水素が、ともに日本しか手がけていない技術であるのに対し、水電解装置は少し様相が違う。旭化成はアルカリ水電解装置で、日立造船は固体高分子型水電解装置で、それぞれ世界最大規模の装置を開発した実績があるが、海外企業の追い上げも急だ。再エネから水素を製造するには必要な装置だが、再エネの普及が遅れている日本では市場の本格立ち上がりが見通せない。

 フランス、ドイツではギガワット級の水素プロジェクトが計画されており、シーメンスなど欧州勢が優位な立場にある。日本勢も欧州に限らず、中東などへの参入を図らなくては、やがて太刀打ちできなくなる。

 規制の課題もある。日本では高圧ガス保安法のために低圧仕様となっているが、規制のない欧州では高圧条件で運転が可能だ。そのため日本の装置を海外で販売するには圧縮機が必要となるなどコスト高となる。海外市場を獲得するには世界標準に合わせなくてはならず、現状のままでは日本市場でしか通用しない「ガラパゴス装置」になりかねない。

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